KORANIKATARU

子らに語る時々日記

自分のことなどどうでもいい


夕刻、あらかじめ注文してあった魚介を満海で受け取り、金毘羅でうどんを買って帰途につく。
今夜のメインはトラフグだ。
とろける美味さを誇るマグロの刺身もどっさり買った。
ミスタービーンのDVDも借りてある。

空気和らぐ我が家の夕餉を思い浮かべつつ、本日最終業務となる訪問先に向けクルマを走らせる。

早速タコちゃんからメールで返信があった。
タコちゃんというのは、阿倍野天王寺界隈で知らぬ人のない名医、田中内科クリニックの愛すべき田中院長のことである。

顧客先を通じ知人から体調不良について聞かされ、何であれまずはタコちゃんに聞いてみようと、所見を伺ったのであった。
路肩にクルマを停め、微に入り細にわたってあらゆる論点を語り尽くすタコちゃんの丁寧な記述を熟読する。

読む者がポイントを汲み取りやすいように行き届いた配慮ある記載であり、その症状についての着眼点が素人である私でも即座に把握できた。

名だたる医師の間においてさえ聞こえ高いさすがの名医である。
結びの言葉に、これはカネちゃんにも聞け、とあった。

訪問先に到着し、カネちゃんにもメールを送った。
手が空いた時にでも返事くれるだろう。

訪問先の弁護士先生にご挨拶し着席した瞬間、カネちゃんから電話があった。
即座のレスポンスである。
弁護士先生の目に促され、私は電話に応答し席を外した。

専門医として様々なケースについて場合分けしカネちゃんが説明してくれる。
その一症状について、夜通し語り明かすくらいの勢いを感じる。

チャージいくらか計り知れない弁護士先生を待たせてある。
しかし、カネちゃんもチャージで言えばいくらなのであろう。
同級生のよしみでよってたかってタダ乗りしているが、換算しがたいほどの値打ちもの、これこそまさにプライスレスと言えるだろう。

顧客先の弁護士先生の方は私が払うのではないけれど、プライスありだ。
まだまだ話し続けるカネちゃんに礼を述べて、電話を切った。

ネクタイを締め直し弁護士先生の真向かいにかしこまって腰掛け、そして思う。
タコちゃん、カネちゃんと気軽に軽口たたく間柄であって日頃忘れているけれど、彼らは現役バリバリ最前線、超が2つ3つ着くほどの優秀な医師なのであり、初対面であれば恭しく頭下げて接するような相手のはずなのだ。


灘浜グランドでの練習は7時に終わるはずなので、8時半であればもう長男が帰ってきてもいい時間である。

鍋の支度を終え、帰りを待つがいつまで経っても戻ってこない。
連絡のつけようもない。
学業は頑張っているが故あって今携帯は持たせていない。

まもなく9時半となる。
焦燥と不安入り混じったような重たい空気が食卓に垂れ込める。

どこか寄り道しているのだろう、と笑って口にしたところで、事故にでも遭ったのかと心をよぎる懸念は逸らしようがない。

大阪で自転車に乗った中学生が軽自動車にひかれて死亡したというニュースがその日もあったばかりであった。

先日、野田の旭屋に寄り長男と二人で中盛チャーシュー麺をうまい、うまいと食べたシーンがふと蘇る。

もう会えないのだとしたら、とよからぬ想像が頭を巡り、ゾクリ冷え冷えの感触に凍るような思いがした瞬間、門の開く音が響いた。

上級生が遠征するので練習が8時まで延長になったのだという。
一時間も練習が延びるならコーチから連絡の一つくらいあっても、と家内は言うが、塾などではなく武骨な男子が集うラグビーチームである。
そんな過保護をあてにするなど本末転倒であろう。


今朝、事務所へ向かう前、長男と二男の寝床を訪れ一時過ごしそれぞれの毛布をかけ直した。

家に帰れば、毎日、子らに会える。
当たり前のことだと思っているが、これは相当に満ち足りた日々だと言えるのだろう。

子らによって、自分のことなどどうでもいいという境地が拓かれる。

逆説的であるが、自分のことなんてどうでもいい、と心底思えれば思えるほど、幸福だと言えるのだろう。