KORANIKATARU

子らに語る時々日記

走れメロス、市内は案外小さい。

二男の学校前に到着したのが午後5時前。
今日は運動会だった。箱根山体操は大盛り上がりだったという。
家内と二男をピックアップし桃谷へ向かう。

知り合いの事業主さんが一押しする焼肉屋があって、今夜は家族揃ってそこで夕飯をとる。

クルマをコインパークに停め、午後5時半、桃谷駅に向かう。
ラグビーの練習を終えた長男とは駅で合流する予定になっていた。

駅は騒然としていた。
駅前に消防車やパトカーが何台も停まっている。

人身事故があったようだ。
道路側から駅のホームを見上げる。
事故直後。
ビニールシートなどの覆いは何もない。

ホームの端の方で救急隊や警官がせわしなく動き回っている。
進入する電車にホームの端から誰かが飛び込んだのであろう。

おそらくは肉片を拾い上げ、これもまたおそらくは車輪に挟まった肉塊を引きずり出そうとしている。
ホームの下からは、そのような動きに見えた。

さっきまでは生きていた人間がそのようになったということが、おぞましい。
目と鼻の先の凄惨に気が塞ぐ。
何があろうと、そのような結末に帰着させてはならないものだろう。
その無残とイコールで結びつく原因などあるはずがない。
払いが大きすぎる。

そのとき非通知で着信があった。
長男が公衆電話で連絡してきたのだった。

大阪駅で身動きできない、人身事故で電車が動かず運行再開の目処も立っていない。
とても桃谷まで辿りつけない。

地下鉄を使え、と言葉をかけたところで電話が切れた。

大阪駅の混乱の具合が目に浮かぶようだ。
日曜夕刻、ただでさえ混み合っている。
環状線が動かないとなれば、そこに滞留する人の数は空恐ろしいくらいのものであろう。

長男の立場になれば、家に引き返す、というのが最善の状況判断であると理解できる。
家族を待たせる訳にはいかず何とか公衆電話に辿り着き、一報だけ入れた状況判断も正しかった。

家族団欒の空気が萎えて、食事をとりやめようと思い始めたところで、二男が「焼肉、行こ。それを楽しみに来てんから」と言って歩き出す。

その動きに促され、焼肉ソウルへ向かう。

店は大盛況であった。
予約した席に腰掛ける。
ロース、カルビ、ハラミ、バラ、ミノ、アカセンなどを焼いていく。
聞きしに勝る、どの肉もとろけるような美味しさだ。

店員は親切気さくであり、日曜夜、家族でくつろいで食事するのにうってつけだ。

時折、家に電話をかける。
長男は無事戻っただろうか。
呼出音だけが鳴り続ける。
長男に携帯を持たせてないことを、このときばかりは悔やんだ。
連絡つかないことほど、もどかしいことはない。

夕飯も終盤に差し掛かる。
仕上げの冷麺を頼み、長男への持ち帰りのロースを焼く。

そのとき、電話が鳴った。
7時少し過ぎ。
非通知だ。

長男からだった。
いま、桃谷に着いた、場所どこ?

そこで待て、迎えに行く、と私は店外に飛び出す。
てっきり帰ったものと思い込んでいた。
ところが、彼は何とか辿り着いたのだ。

長男に聞く。
どうやって、来た?

走った。
彼はさらりそう言った。

なるほど、健脚。
電車が動かなければ、走れば済む。
市内は小さい、足腰強ければそれで十分事足りる。

店に戻り、夕飯のやり直し。
塩タンを頼み、ライスを頼み、ハイボールを頼んだ。

f:id:otatakamori:20150608073741j:plain