KORANIKATARU

子らに語る時々日記

道は百人百様、そして世間は狭い。


二男と夕飯を食べる。
作り置きのビーフシチュー、トマトブルケッタ、バケットを分け合う。

家内は留守だ。
赤ワインを開ける。

長男が帰ってくる。
男三人での食事となる。

宅急便がやってきてインターホンが鳴る度、兄弟で交代交代玄関先に出て荷を受け取る。
今夕、三回目の呼び鈴は隣家の奥さん。
アジの塩焼きを持ってきてくれた。
家内がおかず一品を頼んでくれていたようだ。
二男が取りに行く。

脂乗ったアジを分けて食べる。
長男は美味い美味いとビーフシチューをお代わりしている。

まもなく始まる二男の期末試験について話し合った後、長男が帰りがけの尼崎駅で見かけた暴力事件について話を始めた。


祖父と少年の二人連れであった。
少年はまだ園児のように見える。

少年が電車の中ではしゃぐ。
つり革に傘を引っ掛け、傘を振り子のようにして遊び始める。
祖父は目を細め孫を愛おしむ様子であった。

しかし、振り子の動きはエスカレートするばかり。
少しずつ、祖父の様子が変化し始めた。

祖父は注意する。
少年は聞く耳持たない。
生意気にも口ごたえまでした。
傘を祖父に手渡す気はないようだった。

祖父は注意を繰り返す。
まるでそれが掛け声となって、傘の振幅は増していく。

祖父が豹変した瞬間を長男は見逃さなかった。
祖父は咆哮し背にするリュックを背負い投げのようして振り下ろし孫を強打した。

周囲の乗客は一斉に注視するが、何が起こったのか理解できないようだった。
続けざま、なぶり殺すみたいに祖父は渾身の力で立て続けリュックで孫を殴打した。

男性の乗客が割って入った。
祖父は大声で叫ぶ。
まだ殴り足りないようだった。
孫はただただ震え怯えている。

電車が尼崎駅に到着する。
そこで憑き物が落ちたのか、祖父は我に返ったようだった。
元の優しいような表情に戻っていた。

取り乱したことを周囲に詫び、さあさあと孫の手を引いて出て行った。
周囲はそれを黙って見届けるしかなかった。


もう二度とその孫は悪ふざけはしないだろうね、と二男が言い、逆かもしれない、切れキャラになって凶暴化するのではないか、と長男が意見を述べる。

デザートのマンゴーを食べながら、そうそうと長男がわら半紙に書かれた一覧表を取り出した。

今回のテストの点数が友だちの名前ごとに手書きで記されている。
科目ごとに結果を集計し、皆で競い合っているのだという。

家にも遊びに来るしラグビーの応援にも来てくれるお馴染みの面々の点数が一目で分かる。

誰が何点といったことはどうでもよい。
前向きでガッツあって性格もいい仲間らと勉強し遊んで秘密を共有し、ともに揃って成長していく様子の一断面が窺えて何とも心頼もしい限りである。


家内が帰ってくる。
今夜は二男の学校の懇親会があった。
中学生のクラス役員と先生らの親睦を深めることを趣旨とした会である。

校長先生や事務長、諸先生らと実際に話をし面識ができて、家内はより一層学校が気に入ったようだった。
先生らの人柄が理解できたに違いない。

世間は狭く役員ママらの交流のなか、いまは少し疎遠となった33期の話が聞こえてきた。
奈良に住む彼とは、私は阪神受験で塾も同じだった。

ママさんらの話では、とても子煩悩なパパだということだ。
そのような話を耳にすると、何だか幸せな気持ちになる。

かつてちびっ子だった我々の仲間が、幸せに暮らしている、子を愛し、平穏な日常のなかにある、そうだと知れば、ただただ嬉しい。

中1の息子は東大寺に通っているという。
灘でも通るレベルの超優秀児であるというから親父と同じ。
異なるのは息子さんは星光をすべり止めにして東大寺を目指した点。

そう言えば、神戸に住む33期の子も超優秀児であったが灘には行かず甲陽を選んだ。
さらに言えば、大阪南部に住む33期の超優秀児も灘には行かず西大和を選んだ。
当たり前のようにそれが最良と灘に進んだ33期の超優秀ご子息もいれば、各自独自に別解としての最良な進路を考える親子もある、道は百人百様ということなのであろう。

世界は広く、しかしますます世間は狭い。
我々に引き続き彼らについて、代替わりしての再会といったこともあるであろうと想像すれば、とても楽しい気持ちとなってくる。

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