KORANIKATARU

子らに語る時々日記

確かな生活のディテール


好天に恵まれた体育の日であった。
空は一面の青、窓を開ければ隅々まで行き渡った眩しい青が車内に満ちていく。
青に伴うキリリとした冷気が気持ちいい。

休日のFMからは古く懐かしい曲がいくつも流れる。
遠い昔の場面場面が淡い褐色の断片となって浮かんでは消えていく。

今日から南部合宿となる二男を集合場所の学校まで送り、取って返し家内を伴い芦屋ロックガーデンを散策する。

市街地を一歩外れるとまるで別世界。
阪神間の背後には自然に恵まれた風光明媚な一帯が広がっている。

柔らかい陽光が降り注ぐ。
散策する家族連れはみな幸福そうに見える。
緑の香りをふんだんに含んだ秋の空気が全身を巡っていく。

これからは夫婦で遊んで暮らす、そのような未来について楽しく話し合いながら緑陰の道を進み芯から心くつろぐ時間を過ごす。
神戸の海を下方に臨む保久良神社で手を合わせ、昼過ぎに再び下界へと舞い戻った。


芦屋の竹園で揚げたてのコロッケを買い横付けした車内で空腹を満たす。
遡ること十年以上昔、まだ二男が生まれる前の頃。
長男をバギーに乗せ駅のアプローチのベンチに腰掛け家族三人でコロッケを食べた。

コロッケを通じ、過去と現在がつながる。
過去から未来は常に不可視。
振り返ってのみ流れの軌跡を見渡すことができる。

時間が幸福を運んでくる。
そのような暮らしの流れにあるのであれば感謝に堪えない。


熊野の郷で温泉に身を浸し疲れを癒やす。
どこか夕飯の店を予約しようかと話し合うが、家内が作ると言うし出かけるのも面倒だ。

甲子園のイカリさんで食材を買って家に戻った。

外出後の疲れも見せず家内が軽やか料理をこさえて、その間、私はビールを飲みワインの栓を抜く。
長男は友人らとBBQするのだと朝から出かけて留守である。

家内と二人で食卓を囲む。
子らを撮影したラグビーやらダンスやら旅行のビデオを流し、それを見ながら食事する。
男子二人の逞しく育っていく過程がビデオのなか一望できる。

そこには実質ある生活が静か着実に積み上がってきた時間の堆積があった。

何か派手に遊んだり賑やかなイベントがあった訳ではないので、一断面を見れば特に目をひくものはなく味も素っ気もない。

しかし、流れとして通して見れば、その時点その時点に確かな生活のディテールが存在していたことが浮き彫りとなる。
彼らが夢中となった対象の変遷を後で繋げば明瞭な意味が浮かんできそうに思える。
それを静かに見守ってきたのは家内であった。

振り返って見れば、丹精込めて作られた映画のシーンのようにどの場面も見応えあって味わい深く、かつ暗示的だ。

ワインが進む。
どの家庭であれその辿る道筋は人知を超えた壮大な企図のもとにあるのだろうか。
酔うにつれ何もかもが不思議で仕方なく、仕方ないので更にまたワインをお代わりし遂には眠気押し寄せ意識の電源が自動でオフとなった。

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