KORANIKATARU

子らに語る時々日記

会話だけが盛り上がった野球観戦

まだ四月なのにこの日の気温は今年最高、30℃目前にまで迫った。
クルマに充満する熱で顔が歪み、ハンドルはまるで発火寸前、触れて一瞬手がはじき返される。

空調で熱を冷ますが、春先気分のカラダはまだ暑さに慣れておらず、終日の運転は思ったよりもカラダに負荷をかけたに違いない。

しかし所詮は本格的な夏にはほど遠く、夕刻になると一気にその勢いは影を潜めた。
川べりに涼しい風が吹き渡り、ジョギングするにはうってつけとなった。
走って爽快、日中の熱と労務の疲労は雲散霧消した。

走り終え家内と連れ立ち甲子園に向いて歩く。
途中、商店街の名店で焼鳥を調達する。

甲子園球場に着いたとき、すっかり日は落ちていた。
入口で渡された伝統の一戦記念Tシャツを揃って着用しアイビーシートに並んで座る。

ちょうど六回表、藤浪が打ちこまれジャイアンツに逆転される場面からの観戦となった。
以後タイガースは為す術なく劣勢のままとなった。

だから野球など全くお構いなし。
まるで発光しているかのよう、明るく照らされた土と芝のグランドを遠くに眺め、わたしたちは公園のベンチで腰掛けるみたいにして過ごすこととなった。
野球少年らに目を向けるのは、雑談の合間合間、ちょっとした歓声があがったときくらい。

まっちゃんのいる上海、ツジ君のいる香港など旅行候補先について楽しい空想を巡らせながら夫婦で話し合う。
二男といつかインド旅行に出かけようと男の約束を交わしていることについては機が熟すまで伏せることにし黙り通した。

時折、通りかかった売り子からビールを買い、また時折、スタンド裏で名物のゲソ焼きなどを買って分けて食べる。

全く見せ場のないまま試合が終わった。
会話以外、盛り上がるところが一切ない観戦となった。

黄色のシャツを揃って着たまま人の流れにのって球場を後にする。

そうそうと家内が言い、いかりスーパーに寄る。
家内が子らの弁当の献立について考えながら食材を物色する。
わたしはその後に付き従う。
いかりスーパーのなか、黄色い出で立ちの二人は異邦人のように見えたことであろう。

ぶらり夜道を家へと歩く。
途中、わたしたちの横を一台の自転車がすり抜けた。

6番アニキのユニフォームを風になびかせ、お爺さんがわっせわっせとチャリをこぐ。
後ろの荷台には、お婆さん。
年若い彼女のように横座りし、お爺さんの腰に腕を回している。

年頃男女のデートの帰り、一瞬そのように見える。

四捨五入すればトラキチ歴百年とも言えるいぶし銀の老夫婦が、揃って球場に乗り込み声援送って、チャリで仲良く家路につく。
その後ろ姿がとても強く印象に残った。

地域のわんぱく盛りに夢を与えるだけでなく、荒削りだが善良な地域住民を励ますだけでなく、タイガースは、夫婦愛の長期醸造にも貢献していると言えるのだろう。

歩きつつ思い出したように、そうそう、と家内が言った。
氏野先生が今日のミヤネ屋に出ていたのでビデオを撮ったのだという。
二男に見せねばならないね、と話し合いつつ、子らの待つ家へ家へと揃って歩を進めた。