迎えのマイクロバスに揺られ半時間。
周囲のジャングル度合いが増してゆく。
ボートで運ばれカヤックの船着き場に到着した。
インストラクターが英語で話し参加者はいずれも外国人。
デュッセルドルフの青年、ポーランドの女性、クアラルンプールの大学生ら、そしてわたしたち。
子らも英語でコミュニケーションするしかなく、学びの一環として格好の場となった。
隊となって道なき密林の水路を進み、時折は見張るかす川幅を横断する。
生易しい負荷ではなく、次第に体力が消耗し始め、やがては苦悶の表情を余儀なくされた。
体力に自信ある我らであったが、後半は息も絶え絶えとなった。
だからゴールに到達したときの充実感は絶大で、参加者皆で囲んでする昼食はやり終えた感満載の共感に満ち、なごやかで楽しいものとなった。
棲息する魚類の観察や無数のこうもりが群生する鍾乳洞などを見学し夕刻前には解散。
心地よい疲労感を覚えつつホテルへと戻り、南国情緒たっぷりのプールにつかって、夕飯までの時間を過ごす。
旅先にあって予定目白押し、常に何か行動するという強行軍は国外でも同じことである。
そしてタクシーに揺られ半時間。
ランカウイ一番のレストランは辺境とも言える地にあった。
地味で小さな建物が点在するだけの僻地の村のなか、突如瀟洒な佇まいのレストランが出現する。
中に入ると、趣深く、向こう側に開ける牧草地からさわやかな風が吹き込んでくる。
耳を澄ませばどこか農村で流れるラジオ音楽も風にのって届く。
Pia's the Padi は奇跡のようなレストランであった。
ネットで見れば外国人ツーリストの間からの評価は絶大だ。
フレンドリーでどこまでもカインドな両親と娘が店を切り盛りする。
心やすらぐいわばカモメ食堂といった雰囲気である。
そして、出てくる料理がどれもこれもすばらしいのだった。
わたしたちはチーズガーリックトーストに息をのみ、チキンカレーに声を弾ませ、ビーフに唸ってエビにとろけた。
神戸や大阪で数々の名品に接してきたわれら食いしん坊家族であるが、これほど意気投合し満場一致で美味しいとうなずきあって賛嘆しあった食事は皆無であった。
日本のアニメが好きで日本語を勉強しているという娘さんが給仕してくれる。
彼女が言うには日本人はめったに姿を現さないということなので、ピア・ザ・パディ、こぞって行くべき名店であると是非ともおすすめしておかねばならない。
店主や娘さん等と話している間に迎えのタクシーがやってきた。
店の前まで勢ぞろいして送ってくれ、手を振っての別れとなった。
食事するということの真髄について子らは学んだに違いなかった。
一生の思い出になる夕飯となった。