KORANIKATARU

子らに語る時々日記

出発まで秒読みの段階に入った

風呂上がりに時計を見ると午後8時。
クルマ走らせれば懇親会の終わる時間に間に合いそうだ。

家内にメールし上本町に向かった。

この日は二男のクラスの懇親会。
学年団の先生方をお招きし母らが囲む。

目に浮かぶ。
開宴と同時、まずは先生方に料理を取り分ける母らがいて、まったくそんなことには無頓着、我先にと料理置かれた一角へと走る母もいる。

挙句、盛った料理を写真に撮ってスマホとしばらくにらめっこ。
周囲の大多数が品あって節度ある方々、だから浮きに浮いた図となるがお構いなし。

おそらくはインスタにでも写真をアップしているのだろうが、発信地点に落ちる自らの幼稚な影に本人だけが気づかない。

なんであれ千差万別。
同じ女性でこうも異なる。

誰がどう、というわけではない。
単なる空想。

都ホテル前でしばし待つ。

やがて家内が現れた。
懇親会の幹事役を務め上げ充実の表情。
今度はクルマを西北に向け走らせる。

道中、会の様子が微細に語られる。
化学の田中先生が同じテーブルだったという。
懐かしい。

午後9時ちょうど。
定位置にクルマを停めた。

まもなく二男が現れた。

この日も会心の時間を過ごせたようで、毎回同じ笑顔。
知的刺激の波長が合うのだろう。
面白くて仕方ないといった様子に見える。

帰途、彼が自説を述べた。

元気なとき、脳は食虫植物のとりもちみたいになって、見たまま聞いたままを丸ごと取り込み吸収する。
でも、夜9時が限界。
それを過ぎると、もう脳のとりもちは粘度失い何にもひっつかなくなる。
だから、甘いものが必要だ。

なるほど、わかりやすい。
わたしはコンビニにクルマを寄せた。

出発まで残すところ10日を切った。

たったひとりでの旅路。
遠路はるばるひとりぼっちであるから、不安も募ることだろう。

しかしそんなことは一切、おくびにも出さない。
口に出しても仕方のないことがある。
そう知る男子は、ぐっと不安を胸に押しとどめて旅立ちまでの日を一人密かにカウントダウンする。

いつか誰であれ自分の道をゆくことになる。
その予行演習のようなもの。

そしてわたしには明らかなことであるが、現地に着いてしまえば面白くて仕方なく、全身が食虫植物のとりもちみたいになってあらゆることを吸収し、夢中で過ごすうちあっという間に帰国の日が来て後ろ髪引かれる、ということになる。

そうと分かっているが言ってしまえば冒険行の値打ちが下がる。
だから黙って送り出す。