前日のアウトドアとは打って変わってこの日はインドア。
家内と心斎橋で待ち合わせた。
大丸の地下でピーナッツやらおやつを買い、若者で渦巻くアメ村に突入。
タピオカ入りのドリンクに続き人気店だという白一でアイスを買う。
のっぽのアイスは二人で分けるにしても大きすぎた。
向かうはビッグステップ。
アメ村のアイコンともいうべき存在だ。
その4階で映画『密偵』が絶賛公開中である。
ソン・ガンホとイ・ビョンホンが共演する韓流映画だ。
午後2時の上映に間に合った。
中央正面やや後ろ側、観賞にもってこいの座席に腰を下ろす。
いよいよ映画が始まった。
そして出鼻をくじかれた。
さっきまで静かだった後ろの席のお爺さんが連れのお婆さんに文句を垂れた。
字幕やがな、読むんめんどくさいわ。
おお、大阪。
出だしから息のむ展開の映画であるが、そのお爺さんがおしゃべりなのでいちいち気がそがれる。
これは絶対爆弾や。
あ、絶対死体や。
次のシーンを一人予測し、いちいちお婆さんに言わずにおれない。
もちろんお爺さんの予測は全て外れる。
吉本新喜劇ならいざしらず、浪速市井のお爺さんに筋を見通せるような厚みの映画ではなかった。
そんなお爺さんもたまには黙るのであるが、単に息を吸って吐くだけの呼吸音ですら耳に障った。
中盤、ちょっと目を背けたくなるようなシーンが連続した。
もうお爺さんは予測するのをやめたようだった。
まもなく、お婆さんを連れ席を立った。
お爺さんにとって拷問シーンなど、字幕読むより難儀なことだったのだろう。
それでようやくわたしは映画世界に没入することができた。
耳学問で仕入れたような薄っぺらな知識など吹き飛んだ。
歴史は感情によっても構成されている。
そう痛感させられた。
ソン・ガンホが演じたのは普通の人間であった。
だから誰もがその立場に感情を移入できた。
そこに自らを置き、その感情と思考をなぞって、他国民に支配され媚びへつらうように生きることの強烈なやるせなさを追体験することになった。
もしわたしが彼であれば、どうしただろう。
そのような問いがずっしり残った。
普段の暮らしのなか、自身がする小さな媚びへつらいについても意識にのぼるような視点ができたようにも思う。
後になるほど重み増すような作品と言えた。
映画館を出ると、日が暮れかかっていた。
風も冷たい。
賑わいの度を増すミナミの街を家内と感想を述べ合って歩く。
映画の登場人物は誰も彼もが際立つ存在感を放っていたが、特にハシモトがギラギラしていて凄かった。
北野武のアウトレイジに出演しても群を抜くのではないか。
そのように家内と意見が一致した。
たまには映画館に出かけるのもいいものだ。
互い共通のいい思い出になる。
前回一緒に観たのは『ラ・ラ・ランド』。
次はアキ・カウリスマキの新作『希望のかなた』、そして次の次はこれまたソン・ガンホの『タクシー運転手』。
いい映画なら待つ甲斐もある。
公開の日を指折り数えて過ごすのも日常に彩り添えるようなものであって悪くない。