夕方から電車の本数が間引かれる。
そう耳にしたのでこれ幸い。
仕事が一段落した午後3時過ぎ、早めに帰宅することにした。
ホームに入ってきた電車をみて驚いた。
こんな時間に混み合うのを見たのははじめてのことだった。
我先に西へと帰還する一団で車内は押し合いへし合いしていた。
神戸線に接続する尼崎駅のホームも人でごった返し、空をゆっくりと巻く生暖かな風とともに、非日常の到来を告げていた。
帰途に商店街で買ったスイカを赤子のようにわたしは抱え、狭い空間にひしめく群衆のなかひとりスイカをあやして耐え忍んだ。
ほどなく群衆とともに掃き出され解放。
その渦の軽快な足取りをみて、早すぎる帰宅を喜んでいる人も少なくない、そう感じた。
家に帰ってもすることがなく、台風情報など眺めて過ごし、夕飯の支度をほんの少しだけ手伝った。
夕方5時には夕食の準備が整った。
家内と晩酌。
揚げ出し豆腐と生姜がよく合って風味がいい。
何を隠そう、わたしがすりおろした生姜である。
この夕飯にエンドロールが流れるなら、生姜にわたしの名が付されることだろう。
イカとハマチの刺身も市場のものなので当然美味しく、豚の生姜焼きも歯ごたえ十分、一口ごとにスタミナがついて元気になっていくような気がしてくる。
スイカで仕上げて、その後は貰い物の高山あられをぱくつきながら、ちびりちびりとハイボールを飲む。
家でこれほどゆっくりするなど久しぶりのことであった。
非日常的な日常とも言える時間、わたしは思う存分羽根を伸ばした。
そろそろ雨も降り始めた午後9時過ぎ、門の開く音がした。
上の息子だった。
テレビではちょうど秘密のケンミンSHOWが始まったところだった。
この日は盛岡冷麺が特集されていて、ぴょんぴょん舎の冷麺セットが紹介されていた。
うちでも欠かせぬ一品である。
子らはこの夏いったい何食平らげたことだろう。
見るだけで食べたくなるが、ダラダラと食べて過ごしたので、忍の一字と耐えるしかなかった。
家内は次の日、冷麺セットを買い足しにガーデンズを訪れるに違いなく、翌日の夜、食卓に冷麺が添えられるのはケンミンSHOWによって決定づけられたも同然であった。