依頼の電話をかけたのは朝の10時過ぎだった。
藤川神父と言えばわたしが中1のときの担任の先生である。
35年ぶりに聞くその声は、お歳召された分、ずいぶんと柔らかに感じられた。
入学したばかりの初っ端の初っ端、宿題をやっておらず叱られた記憶がまだ鮮明である。
ちなみにそのとき叱られたのは二人で、もう一人はソウ君だった。
鋭い眼光の厳しい先生。
そんな印象が残っていたので電話口では緊張したが、お元気ですかとの優しい声に、たちまちほどけた。
かくかくしかじか、大阪星光理事長として同窓会報巻頭にお言葉を寄せていただきたい。
そう伝えた後、しばらくの間があった。
先生ご自身も大阪星光7期生であるが、同窓会には消極的でどちらかと言えば「そっとしておいて欲しい」タイプなのだという。
原稿を固辞されるのかと一瞬不安を覚えたが、せっかく声をかけてもらったので書きましょうと快諾を得ることができた。
お願いしてから小一時間。
手書きの原稿がFAXで送られてきた。
人に呼応できること、互いその名を呼び交わすことができる幸福と喜びについてしたためられた原稿は強く胸打つ内容であり、巻頭を飾るにふさわしい言葉に溢れていた。
この日一番の仕事を果たせた満足感に浸りつつわたしはその原稿を何度も読み返しテキストデータに打ち替えていった。
その夜ベッドで横になっていると、帰宅し夜食を終えた長男がわたしの寝室にやってきた。
模試の結果をわたしに渡し、彼はごろりと隣に寝転んだ。
英語と数学がいいねなどと寸評を加える間、彼はわたしの携帯をスクロールし漫然と眺めている。
そして言った。
あ、タコちゃんや。
たまたま古い写真をスマホに保存していた。
確かにそこにタコちゃんが写っているが、35年以上も昔の写真である。
それでも長男が一瞬で判別できたことにわたしは驚いた。
変わるようで変わらない。
人の面影とはそういったもののようである。
それで自然と友だちの話になった。
息子は言う。
学校は楽しい。
なにしろそこに友だちがいる。
そりゃそうだ。
何より、友だち。
中1から始まって思った以上に長い付き合いになる。
50歳を前にしても星光仲間でしょっちゅう顔を合わせている。
西大和でも同じことだろう。
彼は黙って聞いている。
いま一緒に過ごす友だちの何十年後かの横顔を思い描いているのに違いない。
この先何十年もそうであるように。
彼の若き友人らの顔を頭に浮かべ、わたしは願うような気持ちになった。