焼肉が食べたい、長男がそう言うので喜んで付き合うことにした。
そう言えばここ数日、彼の表情からは疲労の色がうかがえた。
それで本能的に肉を欲したのに違いない。
体調の仕切り直しに肉は最適。
どうせ食べるならいい肉をと思い野田の焼肉やっちゃんを予約した。
店は大阪の下町にある。
午後7時、わたしたちはカウンターの中ほどに腰掛けた。
猿が癇癪起こしたみたいに喚く数人が左手にあってやかましく、右手に座るパンク系三人のビジュアルの迫力を凌駕していた。
よほど現場で絞られているのか、そこに不在の上役を左手に座る数人で寄ってたかって痛罵している。
そんな罵声が主音声。
タトゥーが両腕覆うパンク系は風体こそものものしいが、どうやら美容師らしく仕事について静かに語り合い、互いの技術に関し意見を交わし合っている。
右側のそんな囁き声が、副音声となった。
わたしたちは言葉少なに食べて過ごし食べる量では群を抜いた。
なにしろわたしの横に付き従うのは我が家の二枚看板のうちの一人、長男である。
塩タンからスタートし肉を一種類ずつ網に乗せ制覇していく。
その間、キムチや焼きニンニク、センマイ刺しやココロ刺しといった小品を差し挟む。
ハラミ、ロース、ホルモンミックスときて、塩タンからの全四楽章で完結と思いきや、長男がまだいける、というのでバラを第五楽章としてリクエストした。
これでご飯大盛二杯も平らげたのであるから、その時点で長男は完全回復したと言って良かった。
会計を済ませて帰り際、一人でテキパキ見事な切り盛りを見せかつ愛想もいい店長のクミちゃんが言った。
息子さん、よく食べますね。
親バカは、それで褒められたような気になって、いやいやまだまだと照れるのであるからバカである。
息子と隣り合って肉を焼いて食べる。
こんな時間が素朴に嬉しい。
次回は、二枚看板の残りの一人、二男を連れてまた店長に褒められようと思う。