先日、息子の時計の電池を替えた。
替えたばかりであったが、念の為、スペアの時計も持たせることにした。
思い返せば、彼が小6になったばかりの春のこと。
商店街の時計屋に連れていき、腕時計を選ばせた。
彼が指差したのは、アルバのスポーツウォッチだった。
4,000円の時計であったが、それを腕にはめ長男は誇らしげであった。
何度も時計に目をやって隣を歩く彼の姿が今もありありと浮かぶ。
しかし、その時計は早晩失われることになった。
中1になって始めた釣りの最中、青の文字盤のその時計は、一層青い水中の奥深くへと消えていった。
スペアにするならその時計以外には考えられなかった。
中学受験という大一番、彼と一体であり続けた時計であるから再登場願うのが最も理に適っていると言えた。
仕事の合間、昔なつかしの時計屋を訪れた。
同じ時計が陳列されていたのでホッとした。
長男には何も告げず、すべてわたしが削ったHBの鉛筆1ダースとともに、その時計を彼の机の上に置いた。
彼は何も言わないが、水中へと消えた自分の一部が異界から舞い戻り援軍に加わることを何より心強く思っているのではないだろうか。