昼を過ぎ急にそわそわし始めたので、予定よりも早く出発することにした。
事務所を出て駅前でタクシーを拾った。
ふたりとも意を決するような思いで固くなっていたからだろう。
並んで座って全く言葉をかわさず、タクシーのなか沈黙のまま過ごした。
新大阪駅に着き家内と合流した。
祝日のコンコースは混み合っていて何を買うにしても列に並ばねならなかった。
道中に食べる牛タン弁当とフルーツサンドを買い、飲み物にフルーツジュースを買う。
それでも早く着きすぎたものだから時間が余った。
新幹線26番ホームのベンチに3人横並びで腰掛け、これまた無言でしばし過ごすことになった。
いま思えば、この沈黙も一つのコミュニケーションであった。
各自の思いが活発に行き来し、その思いを皆がありありと理解できた。
出発10分前、大阪を始発とする新幹線のぞみ号がホームに入ってきた。
座席に座ったことを確認し、新幹線が動き出すまでその姿に視線を送った。
ヤドカリが古い貝殻を捨て、新しい住処とする貝殻を争奪するようなもの。
ふと、そんなイメージが浮かんだ。
行って帰ってきたときには一回り大きくなって、それに相応しい住処を引っ提げて来るのだろう。
そう思うといよいよ緊張高まり、頭がのぼせて全身がしびれた。