3月2日晴天の土曜日、阪神高速から西名阪に入り法隆寺で降りた。
卒業式は9時45分から。
9時半に家内を薬井の交差点でおろし、わたしは法隆寺インターへと引き返した。
卒業式の様子を思い浮かべるだけでじんとくる。
もし会場へと足を踏み入れ、中学の担任であった寺島先生や高校の担任であった高﨑先生の顔見れば感極まり胸が詰まってお礼を述べるも何も言葉にならなかったに違いない。
思い返せば6年前。
雨嵐に見舞われた入学式を皮切りに湯気立つほどの熱く濃厚な日々が始まった。
その過程で息子は幾人もの友人を得ることができた。
なかには家に泊まりに来る者らもあって、息子含めてその面構えの今日に至るまでの変遷を思えば、男っぷり増すばかりであって逞しくこれはもう目頭熱くなること避けられない。
そして幸いにもそっくりそのまま皆が皆、舞台を移し青春の第二幕の登場人物となってその交流は継続し、就職や結婚や独立開業や子育て、還暦、晩年といったシーンにまで至って全七幕か八幕はある壮大なスケールの一大絵巻になっていく。
もし会場に居合わせて卒業式の光景を目の当たりにしていれば、そこまで思い浮かべ、だからわたしはついには目を泣き腫らすことになったはずである。
そんなことを思いつつ阪神高速を大阪方面へとひた走る。
空は青く、山の緑は濃さを増し、さんさんと降り注ぐ陽射しは春を通り越し夏の到来をはや予感させるほどに強い。
なんてすばらしい春の日なのだろう。
大阪までの所要約30分。
春真っ盛りに身を浸した感傷の塊が出入橋で高速を降り信号待ちしていると家内からメールが届いた。
卒業式がはじまって名を呼ばれた長男は、誰よりも大きな声で返事して、それが破格に大きい声であったため会場が笑いで満ちたという。
そうそう、今日は高校生活にピリオドが打たれる最終日。
誰気兼ねなく好きにすればいい。
はじけて振る舞う息子の姿を思って微笑ましく、わたしは心からそう思った。
今夕の食事の場。
家内によってその一部始終が二万語となって語られる。
そのような形で時差をもってわたしは息子の卒業式に参加することになる。