紅茶の香りに誘われ階下に降りると朝食が出来上がっていた。
二男が令和最初の朝日新聞をめくりながら熱々のエッグサンドを頬張っている。
わたしも合流し二男に続く。
さあ今日は活動しようと家内が元気よく言う。
幾分だるさはあったが、令和初日は無理してでもシャキッとした方がいい、そう思ったので腹を括った。
二男が出発した後、コーヒーなど飲んでいるとちょうど雨もあがりはじめた。
家内と共に自転車で連れ立って家を出た。
静か上品にせせらぐ新堀川に沿い、邸宅立ち並ぶ通りを抜けて南へ向かう。
なんてすばらしい街なのだと礼賛しつつ家内が進む後を追った。
最初の目的地は尼崎浜田町にできたばかりのニトリ。
家具を見て回り生活用品をいくつか選ぶが、自転車と同様、わたしは家内の後ろをついて歩くだけ。
ニトリだけではすべてを調達できずいくつかの品はコーナンに行かないと手に入らないと分かった。
チャリンコ夫婦は颯爽とコーナンを目指し出発するが雨脚が強まった。
ちょうど雨宿りした場所がスシローの駐車場。
昼食は西宮で美味しいオムライスをと話し合っていたが雨天にて予定変更。
十数年ぶり、スシローの中へと踏み入った。
結構おいしい。
いい方に期待が裏切られた。
昔の記憶と異なりスシローは進化を遂げていたのだった。
家内は言った。
これなら息子も誘える。
かつてスシローに連れて行ってもらう機会あり、閉口し絶句したと語った息子もその変貌ぶりに驚嘆するに違いない。
コーヒーまで飲んで二人で三千円ちょい。
休日の昼早い時間、引きも切らず客が押し寄せる理由が深く理解できた。
いくぶん小降りにはなったものの雨は止みそうになかった。
コーナンに直接向かうのは断念し一旦家に戻って出直すことにした。
武庫大橋を渡ったところでショートカットするため河川敷に降り雨にけぶってひと気のない川沿いを疾駆した。
雨にずぶ濡れで野生の血が騒ぐのか時おり家内が手放し運転をして天を仰ぎ、時にはヤッホーと歓喜するみたいに両足を広げた。
わたしは手放し運転ができないのでアゴだけあげて天を仰ぎ、後に続くだけで精一杯だったのでペダルを必死に漕ぎ続けた。
家で着替えてクルマに乗り換え43号線にあるコーナンに向かった。
流す音楽は、今度映画になるというエルトン・ジョン。
家内が運転しわたしは助手席で付き従った。
普段は混み合うのにまるで年の瀬の閉店間際と入った様相。
コーナンもニトリと同じくがら空きだった。
街中の人がみなどこか遠くに出かけているのに違いなかった。
おかげで収穫大。
あれこれ日用品などゆっくり買い物ができた。
そして家に引き返し短パンとTシャツに着替えいよいよ戦闘開始。
雨のGW。
人通り少なくどのみち雨。
家全面にケルヒャーを照射するのにうってつけだった。
グリルシャッターを全開にしクルマを家の外に停め、小雨降るなか水浸しになりながら夫婦で手分けしケルヒャーを使って玄関先と門全面の汚れを吹き飛ばし、通りかかる人があるときだけ手を休めついでにクルマもピカピカに磨きあげた。
一時間以上作業に没頭し掃除をし終え、夫婦で並んで家の外観に眺め入る。
まるでホワイトニングしたあとの笑顔のよう。
家がそのように見え二人で悦に入った。
一休みしている間に夕刻となり二男も自習室から帰ってきた。
令和初日の夕飯はレイユームン。
数日前に閃いて店を予約してあった。
神戸住吉まで電車で30分弱。
店に入ると一番奥の席に案内された。
令和となる瞬間を大学の友人らと一緒に迎えたという長男の話をしながら、大人はスパークリング、二男はオーストリア産のぶどうジュースで乾杯した。
コース料理に海老餃子や焼そばなど小品を織り交ぜてもらうが、やはりレイユームンはいつだって素晴らしい。
どの一口も美味しい、こんなお店は数少ない、そうわたしは二男に話した。
食事しながら二男が映画ゴッドファーザーについて語る。
マイケル・コルレオーネが随所で吸うタバコが作品に緊張感を縫い込む針のような役割を果たしている。
その見解が興味深い。
たしかにそれで一人前といった象徴的なアイテムとしてタバコは用いられ、複雑な現実に寡黙に対峙する男の哀愁がタバコ一本で伝わってくるが、時代は変わってタバコが示唆する意味はおしゃぶり的なダサいものに変質していて第一身体に毒だから吸わない方がいいとわたしは念のため釘を刺した。
ゴッドファーザーつながりで続いてコールドプレイのミラクルズ(サムワンスペシャル)の話となり、男同士、お互い頑張ろうとの結論に至り、デザートを食べ終え家内が言った。
関西に来るならユーミンには是非ともレイユームンをオススメしたい。
お勘定を済ませ店を出たところで長男の友人の父とばったり出合い立ち話となって家に誘われるが辞し電車に揺られ家路についた。
駅を降りダイコクドラッグで日中の買い残しの品を購入し任務完了。
こうして無事に令和初日が過ぎていった。