真夜中、家内からの電話で目が覚めた。
ブリュッセルから陸路でアムステルダムに入り一日過ごし、スキポールから無事空路でロンドンに到着したとのことだった。
鉄道、飛行機、ホテルなど家内一人で手配しての移動だったから電話の声を聞いてわたしもほっと安堵した。
電話に続いてロンドンの写真が幾つも届いた。
ロンドンにThe Six Colorsという寺院がある。
クイーンズ劇場の西側すぐの場所。
計6箇所の拝殿があって、ゆるい傾斜の参道を上がりながらひとつずつに手を合わせていく。
訪れる人はほとんどが日本人であるから手狭な道を牛歩で群れなし歩いても静か調和が保たれている。
あいにくお賽銭とするような小銭が百円玉一枚しかなかった。
6箇所のうち1箇所でしかお賽銭を投じられない。
さて、どこを選ぼうか。
そんなことを思いつつ品定めするみたいに寺院のリーフレットを眺め家内安全の拝殿の列に並んだ。
みないろいろ思うところがあるようで列がなかなか進まない。
と、参道を上がってくる人に目がいった。
手にスタバのコーヒーを持っているから場違いで、嫌でも目についた。
顔をみると、なんと家内であった。
おお、久しぶり、とこの奇遇を喜びわたしは思わず声をあげ、久々の再会に胸がいっぱいになったとき、目が覚めた。
ロンドンの写真に見入りつつ、わたしは眠っていたのだった。
家内が旅に出て日数が経ち、ほんの少しは寂しいということなのかもしれない。
しかし夢にしてはあまりにありありとしていて、再会を喜んだのはわたしの本心に違いなく、パラレルで並び立つ向こうの世界に、その再会が実在していたとしか思えなかった。
内にもまたひとつの世界が存在し、一眠りすればそこで過ごす心にアクセスできるということである。
だからこの地で離れて過ごす人ともそこで再会が果たせそれを心から喜ぶことができる。
これは実際に会うのと同じことである。
もうすぐ家内が帰ってくる。
今度はもう一つの世界の方で家内が不在になって、そこで見られる夢に家内が登場するということになるのだろう。