生来の風呂好き。
夏場など往来に風呂屋を見つけてはコンビニに入るくらいの気軽さで立ち寄る。
だから全身くまなく清潔。
そう自負していた。
しかし自身の心掛けだけではカラダのなか如何ともしがたい場所があるのだと知った。
もちろん歯は磨く。
毎日欠かさずゴシゴシ磨く。
で、それでは用を為さないのだった。
磨き残した汚れが化学的変化を経て凝固したのが歯石である。
汚れのスーパーサイヤ化と言ってよくこれは手強く、ブラシをどれだけ強く当てようがこすろうが歯石にとってはくすぐったくさえない。
そして悪が悪を呼んで増殖するように、汚れは汚れをひきつけその勢力を増していく。
歯石と聞いてわたしは濁りはあっても白系統の固体だと思っていた。
だから黒いかけらを見せられたときには震え上がった。
歯石は歯茎のなか奥深く沈潜し勢力を徐々に拡大していく。
いくら歯を磨いても焼け石に水で慢性的な異臭の原因は残存し続け、歯を支える骨を次第に蝕んでいく。
いいことなど何一つない。
全身清潔で完全無欠に健康。
歯石を一目みてそんなわたしの自負は木っ端微塵に吹き飛んだ。
だからこそ歯石を除去してもらう工程は、自身がよりマシな人間へと回帰していく再生の過程と言え、心満たされ実に心地いいものであった。
歯科衛生士さんがほんとうに丁寧に処置してくれ、難所にあっては貴治院長が直々に手を施してくれた。
大阪星光出身の貴治院長である。
腕は超一流、かつ心優しく丁寧であるのは言うまでもないが、その心根がスタッフ皆に隅々まで行き渡っていたことについては触れない訳にはいかないだろう。
最新設備や椅子の座り心地の良さもさることながら、スタッフがいきいきとし表情よく優しく柔らかな空気にあふれていたから、快適でとても居心地よく過ごすことができた。
きじ歯科西田辺診療所を後にし駅へと向かう途上、わたしはスベスベピカピカとなった歯の感触を上下左右行ったり来たりしつつ確かめ、この先もずっとこの感触を感じていたいと願うような気持ちになった。