電車を降りたとき、家内から連絡が入った。
いま駅前のスーパーで買物しているという。
改札を抜け、わたしは真っ直ぐスーパーに向かった。
ちょうど夕飯の時刻。
スーパーは混み合っていた。
上品で可愛らしい雰囲気の女性が視界を横切り、目を引いた。
襟元にレースをあしらった紺のワンピースがハイソな趣きであったからスーパーには場違いで嫌でも目についた。
もしやと思って目を凝らすと家内だった。
そしてそこからわたしは荷物係でかつ会計係。
家内の後をついてレジを済ませ、また後をついて家まで荷物を運んだ。
キッチンに立ってからは家内が本領発揮。
早速夕飯の支度が整った。
ハモは梅肉、ぶりしゃぶは旭ポンズ。
はちやの餃子はタレなしでも十分いけるがパクチーソースでおいしさ倍増。
わたしはデュワーズのハイボールで家内は梅ジュース。
一日のうち夕飯の時間がもっとも心くつろげる。
家内の二万語は、先日行われた星光ママらとの食事会のことに向けられた。
塾が同じだった母らともっぱら話し昔話に花が咲き、受験時代のことを互いにねぎらいあったという。
ある母が言った。
今になって思えば、皆が能開センターの公開テストでだいたい50位以内、悪いときでも100位以内には入っていた。
だから校舎が違って顔は知らずとも、順位と名が載るので皆が皆、互いの存在を知っていたのだった。
たとえば天王寺校の誰それと上本町校の誰それは、互い面識なくても順位は抜きつ抜かれつするので記憶に根深く、星光に入ったあとで、ああ、おまえがあの誰それかといった対面の仕方をし、十位以内で誰もが知る者を除いてはそのような形で親交を深めることになるのだった。
そんな天王寺校の誰それと上本町校の誰それ二人が、いまでは同じ部活で力を合わせ、一緒に風呂に入ったり遊びに出かけたりして過ごしているのだから面白い。
そしてもちろん、そこは大阪星光。
そのような出合いの仕方であっても、席次が上だったからと言って威張るやつなどいやしない。
うちの家内も料理はうまいがそんなことでは威張らない。
それと同じようなことである。
食卓に並ぶ料理の来歴をちょっと想像するだけでも無数の役割と大勢の人々の尽力が介在していることが容易に分かって謙虚な気持ちになる。
いちいち誰も威張ったりなどしないのである。