KORANIKATARU

子らに語る時々日記

デブがモテようとするとお金がかかる(その1)

大半の会社が金曜で仕事納めだったのだろう。
土曜のオフィス街はいつにも増して閑散としていた。
このところの寒さが和らぎ街は暖かな陽気に満ち溢れている。
年の瀬の雰囲気を満喫するようにぶらりぶらりといくつか会社を訪問する。
総出で大掃除する光景に心和むものを感じながら何人かの職員と今年最後の面談を行う。
どの顔にも一年を戦い抜いたという安堵感がにじみ出ている。

正月準備の買物で市内をまわる家内と合流する。
時間に余裕がある。
お昼は美味いと評判の蕎麦屋へ行こうと話が決まる。

蕎麦のにし田。
八尾市役所近くに最近開店した。
小奇麗な店である。

相当調理に凝っているのか注文から30分近く待たされたけれど、噂にたがわず蕎麦は清涼で滋味深い風味と歯応えであり、おかわりまで頼んで大満足であった。
天ざる蕎麦も湯葉あんかけ蕎麦もお互い一歩も譲らずたいへんな上出来、家内も大絶賛だ。

聞けば店を切り盛りする若き兄弟二人はそれぞれ東京、大阪の超一流処で腕を磨いた練達のスーパー職人ということだ。
商売しているというよりも、職人技を追求するためにこしらえた道場といった捉え方をした方がいいようだ。
出来上がりを辛抱強く待って、粋を結集した技をじっくり堪能する、そのような構えが客に求められる。

大阪で蕎麦といえば、天満の土山人か本町の守破離が双璧だ。
カジュアルなところでは江戸堀の喜作、船場の原川、梅田の神田の名も思い浮かぶ。
さらに砕くと、野田阪神金毘羅うどん。
手打ちのうどん屋なのにここのざる蕎麦は侮れない。
一番安く、しかし上位に食い込む実力だ。
もちろんうどんも美味い。
五島や小豆島の手延べうどんを食べ慣れると手延べは手打ちと似て非なるもの格段の差があると舌が覚え、そこらのうどんなど味気なくとても食べらたものではないがここの手打ちは、海老江のやとう、梅田の葉がくれ、八尾の一忠、西宮の鶴亀、梅八などと並び立ち美味しい。
この中では西宮の鶴亀がナンバーワンだというのが我が家の一致した見解であることもご披露しておこう。

うどんに話が逸れたが、大阪の蕎麦屋ラインアップ最上位ににし田が君臨することになったようだ。
八尾には和食のいし田という肴が滅法美味い名店がある。
洋食ではマルシェ。
二桁勝利が確実に計算できるエース級が三枚も揃っていることになる。
しかし弁当持たされる身にあっては何度暖簾をくぐれることか心もとない限りである。

帰途、兄貴分から電話が入る。
今夜開催の年末恒例の締め飲みの予定が早まったという。
飛び入り参加者があってすでに始まったよ、ということであった。

ひとくさり用事を終え、本町へ向かう。
今夜は兄貴分とスッポンにでも行こうと考えていた。
が、兄貴分の師匠格の方がお見えであるということで、お店の選択権はこちらにない。
店はどこだっていい、今夜は楽しく付き従ってのんびり過ごすことにしよう。

本町センタービルの地下で軽くタラの鍋をつつき、さあ、それでは次は新世界へ繰り出すぞと師匠が仰った。
師匠は新世界の顔ということだった。
ここへ行けば、おれの凄さが分かる。
ついてきな。

タクシーではなく御堂筋線に乗り動物園前で降りる。
地上に出るとすぐ商店街があってその入口に店があった。

店構えといったものがない。
暖簾もない。
簡易なガラス戸を引いて中へ入る。

カビの匂いが充満している。
床が黒く濡れている。
出だし初っぱなから塩をかけられたナメクジのように身が縮む。

手前左右、コの字型のカウンターに丸いすが均等に並び全20席。
左側に一人飲みの作業服姿のおっちゃん、40代風。
右側に一人飲みの作業服姿の50代のおっちゃん、横に梅干し潰したようにクシャクシャで真っ黒な顔の老女が一人。
いや、この二人は連れ合いのようだ。
一体どんな取り合わせなのだ。
想像しそうになって慌ててブレーキ踏んだ。
世には思い浮かべてはいけないこともある。
つづく