KORANIKATARU

子らに語る時々日記

人の自然な流れを指して、順目と呼ぶ。

人の自然な流れを指して、順目と呼ぶ。
何通りもある道のうち、どのような力学でか自然と人の流れが濃くなる通りが生まれる。
それが順目だ。

例えば地元だと、かつてはスーパー万代くらいしかなく人通りも少なかったのに、西宮ガーデンズができ鷲尾耳鼻咽喉科ができケーキ屋ができといった具合に日々往来を増している瓦林の通りは順目である。
これは商業施設などによって生まれる順目だが、景観によって生まれる順目もある。

この界隈でダントツのパワースポットと言えば芦屋川辺りであろう。
山から海へ芦屋川を伝って清涼な空気が吹き込んでくる。
北に佇む山々を見上げても南にひかえる海に目をやっても心気一新され力が湧いてくる。
もちろん特別なエリアなので市によって景観地区として指定されている。
そんな中、阿部レディースクリニックは芦屋川に沿うまさに順目に位置し芦屋女性の文字通りパワースポットとしての役割を大いに果たしている。
ハイレベルなスイーツの店がクリニック周辺に軒を並べるのも、どちらも順目には必需という視点で捉えれば必然的かつ象徴的な話である。

施設、景観その両方の順目が交差する場所と言えば、田中内科クリニックだろう。
南側を見れば、大阪南部の民を強く引き寄せる目玉施設として阿倍野ハルカスとQ's MALLが強く機能し、それらの人波を永遠のストライカーたるアポロが北へ北へとつなぐ。
北側には、まるで峡谷から大阪の下町を見渡すような情緒豊かな暖色系の景色が広がる。
夕刻の柔らかな光に灯るその風景を目にする度、かつてエディンバラ城から旧市街の街並みを見下ろしたときの息呑むような余韻が蘇る。

順目が交差し賑わいのあるスポットが生まれ、逆に、順目でない場所は川や線路や高架道路に分断されたりなどしながらますます人の気配が失せ、昼でも薄闇覆うような何とも陰気な停滞感に覆われる。
しかし順目であっても程度ものである。
何度も言うが大阪駅など、これはもう糞詰まりといった様相だ。
先日環状線に乗っていた。
大阪駅についた途端に出口ドアに人が押し寄せ、押し合いへし合いするような中、不安そうに急いで足を運ぶおばあさんを見かけ心が痛んだ。
何人かがそのおばあさんの存在に気付いたところで、そのような超順目の中では、一人一人の心遣いなど何も効果を生まない。

滅多な用事がない限り、大阪駅はできれば滞留を割愛したい場所である。
ほかに程よい場所はいくらでもある。

土曜日の昼、ニューオータニ乾山のカウンターで寿司を振る舞われた。
銘酒景虎を口に含ませ、差し出される握りをゆるりゆるりついばみ味わう。
店にある全種類のネタを1貫ずつ堪能してゆく。
おいしいものは少し食べるくらいが丁度いい。
それでも全種類食べるとお腹いっぱいになるものだ。
引き続き夜は家族伴い、天雲凛にて丁寧に揚げられた天ぷらの一品一品を、子らに横取りされながら満喫した。
暖まって元気になるよと勧められ、日曜夜はカムジャタン鍋。
ロンググラスだとビールが三倍美味しくなるが、カムジャタンで美味さがさらに増す。

そのようにして、月曜の朝を迎えた。
強めの雨が降り続いている。
厳しい冷え込みは相変わらだ。
2号線に絶え間なく落ちる雨粒をライトで照らしながらクルマを走らせる。
ベソぬぐうみたいにワイパーがひっきりなしに行き来する。

がらんとだだっ広い事務所の一角に腰かける。
賑やか過ごした週末だったからだろうか、いつにもに増して静まり返っている。
心の動きを見つめ更に見つめてしばらく見守る。

我が道はどうやら順目の裏側だ。
後について行く一団の背中もなければ気の利いた標識も伴走者もなく景気付けになるような人集う商店街のBGMもない。
どこまでも黙した世界をひとり見当つけて進んで行かねばならないようだ。
たまに行き合う友人らの顔が浮かぶ。
舞台裏の裏通りでは仕事人の多くがこのような道をよっこらしょと文句も言わず進むのだ。
数々の先人たちも間違いなく各々ここを通ってきた。

静かさが染み入ってきたところでぐっとひと睨み、ぼちぼち仕事に取り掛かる。
馴染んでくれば楽しくないこともない。
さっきまでの寂しい感じがいつの間にかのびのびとしたくつろぎに変わっていく。