KORANIKATARU

子らに語る時々日記

カネちゃんと甲子園で野球を観る

仕事を終え、かん袋のくるみ餅を手に自宅へ戻る。
尊敬する敏腕経営者の方と堺に同行した際、自宅へのおみやげとして買っていただいたのであった。
そのような気遣いをしていただける細やかさに感じ入る。

自然学校から戻った二男も試験期間中の長男も、そして家内も大好物である。
大好物を持って家に帰る、父としての役割を果たしている実感が込み上がる。

食事の支度を終えた家内とビニール傘をさして、散歩がてら甲子園球場に向かう。
途中、甲子園口にある焼鳥の名店に寄る。
安心して口にすることのできる焼き鳥であり、それよりも何よりもお味の良さが際立ち他の追随許さない。

雨が止んでしまったからか、大丸ピーコックに傘を忘れてしまったことに気付かない。

甲子園球場に蠢くいかつい人相の人々をかき分け、数々の入り口を通り過ぎる度、ライトに照らされたグランドがのぞき見える。
なんと美しいのだろう。
夜の甲子園は、これはもう美しい。

所定の入り口を見つけ、バックネット裏のグリーンシートに腰掛けまずは腹ごしらえ。
ビールを頼み、渡されるクジはことごとく外れと決まっているのに、当たり外れ確かめるべくスクラッチをコインで削らずにはいられない。

カネちゃんから電話がかかってくる。
飯食ってから折り返すと電話を切る。
空腹で腹と背がひっつきそうなのだ。
話は後である。

その日の昼過ぎにカネちゃんから電話があり、野球に行かないかと誘われた。
天六いんちょが仕事で行けなくなりチケットが余っているという。

いや、おれも行くのだよ、と答えた。

何という奇遇だろう。
たまたま誘った相手が、都合が悪いとかではなく、おれも行くからという理由で誘いを断る。
レアケースに違いない。

焼き鳥を平らげ、力みなぎってカネシを探しに出かける。
カネちゃん、いま行くぞ、待ってろと下唇噛み締め、通路を走る。
いま、どこだ、と電話する。

入れ違いであった。
さすが名うての医者である。
彼はすでに私たちの座席近くに接近していたのであった。

タイガースはノーヒットに抑えられている。
しかしつまらないといったことはない。
間近に観るプロ野球は単なる見せ物の域を超えている。
ボールの質感や軌跡、打撃音の響き、選手の動きのスピード感、力強さ、眼前に迫る立体感あふれる全体の流れなど、ライブの情報量は凄まじい程だ。
そして、球場が美しく、選手が神々しく見える。
プロ野球選手というのは数あるスポーツのなか、最も運動神経に優れた精鋭、最高峰の集まりと言っても過言ではないだろう。

そのような光景を目の前にし、カネちゃんと家内含め3人で四方山話に話を咲かせる。
あっ、絶品の焼き鳥をカネちゃんに残しておくべきだった。
次回はちゃんと待ち合わせして、一本目から分け合おう。

大和が初ヒットを打ち、カープが2連続でエラーして流れが変わった。
終盤一気に大逆転。
43歳の野球少年、カネちゃんは大はしゃぎで周囲とハイタッチする。
酔ったどっかのおっさんがハイタッチしつつ家内の手を触る。

1シーズンで何度もお目にかかれないだろう逆転劇であった。
ヒーローインタビューで受け答えするマートンに接近しようとカネちゃんが一塁側のネット際までわーいわーと走って行く。
43歳の野球少年。

勝利の余韻に浸りつつ、3人で肩並べ、思い出話しつつ甲子園筋を北上する。
街路百選があれば、必ず上位に名を連ねるに違いない。
閑静で道幅が広く街灯や並木の配列が情緒にあふれている。
甲子園球場の熱を、静か覚ますのに格好の通りと言える。

カネちゃん、どっか飲みに行こうと駅近くでカネちゃんを誘ったものの、夜の10時過ぎ、私はすでにふらふらで、ビール一杯で、がっくりうなだれた。
その様子を察して、カネちゃんがひきあげようと助け舟を出してくれる。
リングにタオルを投げ入れてくれたようなものだ。
駅までカネちゃんを送る。

中学生のとき、一緒に帰り、一緒に不良に絡まれた仲である。
子らも同世代。
二男は、同じ学校に行くのかもしれない。
つくづく縁の不思議さを感じる。
ちょうど午前中、尊敬する社長が、学校時代のつながりの意義と恩恵について述べていたことも奇遇である。
縁が縁を結んで強い縁を生んでいく。

カネちゃん、いつもおごってくれてサンキュー。
これからもよろしくである。
肝臓も任せた。
不具合あっても治してくれるに違いない。
手遅れになって何かあっても、カネちゃんなら必ず線香の一本でも上げてくれるだろう。