KORANIKATARU

子らに語る時々日記

端的に説明できない何か


先週、仕事が早く終わった日があり、義父に声をかけ近場のお好み焼き屋で瓶ビールを飲みまくった。
10本空けようと意気込みぐいぐいペースで飲み進めるが、20代ならいざしらず40を越えた代謝では、5,6本でお腹たっぷたっぷとなる。

義父の人柄の賜物であろう、まわりの有象無象が親しげに話しかけてくる。
私は義父と話しに来ているのである。
適当にあしらう。

大阪の地に根強い、誰もが誰かと話したいという社会通念と格闘するには、とんちんかんな受け答え、聞こえないふりが有効だ。

兄ちゃん、儲かってる?
この質問は無視する。

体重100キロあるやろ?
この質問には、そうやね20分くらいかなと答える。

子供何人おるん?
この質問には、ははっはほんまやねえ、と答える。


土曜日、明け方。
寝室をのぞく。
キングサイズのベッドで家内挟み左右対称な寝相で子らが眠っている。

仕事に向かう。

我儘受け入れて頂き、相当な負荷に苦慮した仕事の任からこのほど解かれ肩の荷が下りた。
貴重な教えを数々受けた。
苦難与えていただき心から感謝である。
この学びを役立て顧客に還元しなければならない。

不思議な念とともに三人の寝姿を思い浮かべる。
三人をそこに引き集め結びつける力は一体どこから生じて、今後どのように作用してゆくだろう。
何だかよく分からない因果のようなものに迫ろうとしてしかし何も明瞭とはならずもどかしいだけであり結局は仕事の段取りに思考は向かう。


日曜朝、始発を待ちつつ二男が録画予約した進撃の巨人を観ていると長男が起き出してくる。
アニメなどそっちのけ、釣りに出かける支度をし始め、そそくさと出かけて行った。
磯釣りと渓流釣りに関しては単独行動禁止だと伝えてある。
慣れ親しんだ河岸や岸壁以外ご法度だ。

水は怖い。
どれだけ泳ぎが上手でも油断は禁物。
万一の場合に浮かぶための防備が不可欠だ。
天候の変化や水の流れ、水底の様子など常に危機感張り巡らせ注意を払わなければならない。

釣果はなくとも無事に帰ってこなければならない。

午前は武庫川で単独で釣り、午後は学校の友達と夙川の池で釣りだという。


日曜日、二男は近所までラグビーの練習に出かける。
塾が終わった後、駅から数十分も走らねば気が済まないほど体力が有り余っている。
前夜から玄関先にスパイクが準備してある。
暴れ回るのが楽しみでならないのだろう。

我が家では細身だが、女子ママからは、その体躯を褒め上げられる。
均整のとれた筋肉質な体つきが、しなやかな強靭さを如実に表している。
そりゃ、こんな息子がいれば頼もしい。
テストも百点ばっかりだ。

一体誰に似たのだろう。


割り勘で一人10,290円。
財布から1万円札と小銭を取り出す。
ラストのじゃこ飯がヤワ過ぎたが、他はまあまあ。
遠方の客人は満足したようだ。

続いて、二軒目へ向かう。
彼は学生時代からモテモテの男である。
同行するなどオスとして戦略的には誤っている。
しかし戦果を求めない私にとって何も不都合はない。

そのように考えつつ、目が覚める。
なんとリアルな夢だったのだ。

facebookをやめて以来、そのような友人らと交流が途絶えた。
早稲田の友達何人かと会って話せば、日本の最先端で何が起っているのか、一面が見えてくる。

ちょっと寂しいような気分に陥る。
そろそろ戻るべき時期なのだろう。


始発の電車。
真向いに、ミテミテギャルがいて、その隣におじさんが座っている。

おじさんの挙動があやしい。
まるでカンニングしているみたいに、隣の生徒の答案を盗み見るみたいにミテミテギャルの胸元や足元を、文字通り鼻の下をのばして必死にのぞいている。

神の御業、男子にそのようなターゲット追跡機能が備わっているとは言え、おじさん、それはやり過ぎだ。

人間、恥を知らねばならない。

その顔、家族に見せられないだろう。
街中の巨大スクリーンにその顔が映し出されたら、もう外も歩けなくなるだろう。

進撃の巨人に登場する標準的な巨人らは、知能を欠き虚ろな表情で跋扈し人間を蹂躙する。

怖気走るほどに醜悪な巨人の表情は、一体何を象徴しているのだろうか。


ジム帰りの父を誘って阿倍野で飲む。
ルシアスのサムギョプサルの店に入る。

ほ乳類の心臓の耐用心拍数は15億回だという。
ヒトであれば計算上、40歳程度で打ち止め寿命ということになる。

間もなく44歳になる私は打ち止め年齢をとっくに過ぎ、余生を生きているようなものである。
しかし父を前にすると、余生の段階に入ってさえ、なんと私は幼いのであろうと身にしみるばかりだ。

数々の修羅場を潜り抜けた最高の知性が眼前にある。
視点の数、洞察の奥行き、事物を流れで捉える動体視力、何もかも、たちうちできない。
仕事や人間関係について、皮相で近視眼的な見方しかできない我が身の単細胞を修正する示唆を数々受ける。

父の鼓動はもうすぐ30億回となるだろうか。
酒場で鼓動のお手合わせできる機会は限られている。

もっと父と会わなければならない。
そのうち取り返しがつかなくなる。