1
家内との待ち合わせ時間まであと40分ほどある。
何をしようかと一瞬思案し、大慌てで日記を書いてから仕事場を後にした。
買い物帰りの家内と合流する。
今夜の食材やその他品々をリュックに詰めて肩に背負う。
いざ出発。
昨晩私たちは仕事場近くで待ち合わせ自宅に向かってウォーキングすることにしていたのだった。
二号線を西へ進む。
淀川大橋を渡る。
左手を見れば淀川を照らしながら阪神電車が上り下り行き交い、右手背後を見れば梅田界隈のビル群が色とりどりの光放って林立している。
家内は話し通しだ。
野里の交差点に差し掛かる。
ここには、パンの名店ブーランジェリー夢屋がある。
家内が吸い寄せられていく。
子らの朝食用にあれこれと買う。
調達終えてウォーキングを再開。
店主がおまけでくれたというフォッカチャを分けて食べつつ西へ西へと歩を進める。
2
不思議なことに話題は尽きない。
一緒に暮らすのであるから、ネタ枯れであってもおかしくないはずだ。
それなのに、途切れることなくお題目が自動生成されてゆく。
子らの話が主旋律となり、そこに友人やら仕事やら近所の出来事などが相交わって話題が無限に奏でられ、あっという間に時間が過ぎる。
気づけば、長男の帰宅の時間が迫っている。
家内は食事の用意をしなければならない。
全行程を踏破すれば間に合わない。
ウォーキングはそこで一旦切り上げ電車を使ってワープすることにした。
ここからの最寄駅は、阪神大物。
大物駅を通り過ぎないよう、二号線から線路沿いの道へと移る。
夜、阪神電車高架下の道は、果てしなく暗い。
特に杭瀬から大物にかけては真っ暗であり、一人だととても怖くて歩けない。
そのように家内に言ったところ、他の人からすればこの道より丸坊主で歩くあんたの方が怖いと思う、と指摘を受けた。
一本取られた。
3
たかおか歯科クリニックは尼崎界隈ではダントツ・ナンバー・ワン歯科医院である。
評判高まるばかりの高岡先生はまだ診療中であった。
外から院内をのぞき見しつつ大物駅の階段をあがって改札をくくる。
ホームでしばし待ち阪神電車に乗る。
家内が友人の旅行の様子や近況の写真などをiPhoneで見せてくれる。
みな、幸福そうである。
人が幸福そうにしている様子はとても参考になる。
これ見よがしで肩肘張った押し付けがましいにもほどがある、まるでトランプのカードの目を競い合うみたいな幸福もどきの切った張ったのご開陳には不快を覚えることもあるけれど、自然にじみ出る幸福については話は別だ。
このようでありたいと素直に学ぶことができるし、私たちもそのように導かれていくかのような平穏な心持ちとなる。
それら友人らの写真を見つつ、子らが小さいときは、こうであっても良かった、こんなこともしておきたかった、と過去を振り返り、じゃあ次は、私たちもここへ行こう、あそこへ行こう、将来はこうしようああしようと話が弾む。
人様の幸福を通じて私たちも幸福に対し目を開くことになる。
まずまずであり、悪くない現在地点を噛みしめるような気持ちとなる。
結婚15年を過ぎたが、その前半は所帯を成り立たせるための第一次奮闘期、後半は子育てに傾注する第二次奮闘期であったと言える。
前半はそれこそ暗中模索であったし、後半はハラハラドキドキの連続であったが、時間を追うごとに楽しさが増していったというのは間違いのないことである。
四苦八苦とは切っても切れない人生であると承知しつつも、今後ますます実り多い良き人生の局面に入っていくように思えてならない。
静か味わうような時間がたんと残されているという感覚というのだろうか。
頑張った甲斐があったというものだろう。
4
この日、文科省が重点支援していくというスーパーグローバル大学の発表があった。
国際社会のなかで埋没しつつある日本の大学を盛り立てていこうという趣旨のようである。
私学では早慶、国立では旧七帝大など計13校が世界100位内を目指すトップ型に選ばれた。
国が肩入れして更に大学間の格差は広がっていくのだろう。
そうであっても、一方で大学受験人口のベースとなる18歳人口はピーク時の1992年と比較すれば半減した状態であり2018年以降からはまた再び減少に向かっていく。
例外はあるにせよハードルが高くなっていくとは考えにくい。
ムキになってまで頑張る人が減り続ける社会の様相である。
ボチボチ身の丈程度で奮闘すればいいだけのことだろう。
老子曰く、企つ者は立たず、跨ぐ者は行かず。
背伸びしても続かない、大股歩きしても続かない。
ベスト尽くそうとファイト一発意気込むよりは、ベターな感じで飄々と進むほうが長期的にははるかに吉と出るだろう。
その過程で、満足できる領域が見いだせれば、そこを居場所とすればいいだけのことである。
そのような話をしつつ、阪神甲子園駅からの帰途、子らのおやつにと、たこ焼き買うため夫婦で列に並んだ。
もう家は目と鼻の先だ。