日曜朝の始発をホームで待つ。
六甲の山伝い、平地に降りてきた冷気には緑と土の香りがたっぷりと含まれている。
起き抜けのカラダが心地よく覚醒していく。
神戸方面からやってきた電車は空席もまばら。
一歩足を踏み入れると、酔場の余熱まで運んできたのか空気が生暖かく、そして酒臭い。
酔って臥せったヤンキー風の青年が御足さらすこれまたヤンキー風の彼女にしがみつくように寄りかかり、今にもゲロ吐きそうである。
あいにく彼の横にしか空席がなかった。
ちょこんと腰掛ける。
あたりを見回す。
乗客の過半が夜を徹して飲んで遊んでやっと始発にありついたといった風体の酔っぱらいで占められている。
そりゃ臭い。
これから始まる日曜を、彼らは寝床にもぐって過ごすのだろう。
朝の光を浴びつつ飲むコーヒーの美味しさからは程遠い世界。
道徳的な観念などではなく身体感覚として、この世の果ての不健全さを覚える。
仕事場の駅につく。
大阪市内の商業地域はどこも似たようなものなのだろう。
週末の通りは壁に落書きされたみたいに、思い思いのゲロで汚される。
ゲロ花火が路面に咲くと言えば少しは風流だろうか。
なかには抽象画を思わせるような趣き深いレベルに達するものまである。
元の所有者の不満や鬱屈を代弁するかのようなゲロ跡を注意深く避けつつ道を進む。
地元ボランティアの方々が隊列を編成し清掃を始めている。
文字通り、善良な市民が退廃のケツを拭くというような図である。
朝食を摂るため、なか卯に入るが、警察官が三人もいて一瞬怯む。
聞けば、午前3時に食事したまま眠り込み歯ぎしりがうるさい男性を退去させるため警官が駆けつけたということである。
年格好は30歳くらいだろうか、安眠を妨害されて機嫌損ねたのか男性は警官に文句を言い始めた。
しかし、全面闘争するかのような口ぶりで悪態ついた言葉は発するものの、足は素直に警官にいざなわれるまま行儀よく動いて店外に出て行く。
日曜朝、ぶらり通りかかるだけでも物珍しい出し物とお出合いできる。
さすが大阪。あっぱれ大阪。ハズレがない。
一騒動も落ち着いて、心穏やか朝食をかきこむ。
と、一人の警官が店に戻ってきた。
ビニール袋を二枚ほど拝借したいと店員に言う。
さっきの男性が嘔吐でもしたのだろう、と頭に浮かび、なにしろ食事中である、食欲が消え入りそうになる。
警官が店員に続ける。
いやね、さっきの件とは別件でして。
ネコがそこで死んでるので、それを片付けるのにビニールを使いたいんですよ。
私は耳を塞いだが、もう遅く、そして逆効果となった。
頭に栓した状態で、その中を滅入るようなイメージが死んでいるのに走り回ることとなった。
もう、食べることなどできそうもない。
私は箸を置くしかなかった。