1
長男が学校から戻ってきたので、まずは前に座らせた。
何か芳しくない話が学校から伝わったのだろうか、しかし思い当たることはない、といった風に長男は心配そうな表情を浮かべる。
悪い話ではない、と言うと、途端に緊張が解け顔がほころんだ。
ラ、で始まるいい話だ、と続ける。
一瞬の間、「ラ」について思考を巡らせ、長男の顔がパッと華やいだ。
やった、ほんまに、やった、やった、と長男が歓喜する。
そうそう、本当の話。
望みが叶ったのだよ。
右腕に渾身の力を込めて長男がガッツポースして言った。
「よっしゃ、ライン使える、嬉しい、やったー」
「ラ」で始まるが、ラインの「ラ」ではない。
第一、そんなもの校則で禁じられているではないか。
話を振り出しに戻すのにしばし猶予が必要となった。
2
「ラ」はラグビーの「ラ」だ。
兵庫県選抜チームのセレクションに選ばれたのだ。
春のセレクションではちょうど佳境の時期に定期考査と学校のスキー合宿が重なり不完全燃焼であった。
だから今回は捲土重来。
選ばれることを目標に置いて県大会に取り組んできた。
県大会では一回戦負けであったが、少しは見るべき所があったと評価されたのであろう。
11月の下旬に三木防災公園で近畿予選があって、うまくいけば12月年末に花園での全国大会。
層の分厚い、猛者揃いの兵庫県選抜チームにおいてはゴマメ君など出番ないだろうが、それこそ参加することに意義がある。
そのように話すが、ラインがぬか喜びに終わって長男は気抜けしている。
秋の連休も含め休日全てが練習や京都代表や神奈川代表との交流試合に費やされる。
ハードスケジュールだ。
学校の勉強があるし、英検の受験もある。
辞退、するか?
と水を向けると、長男は首を振った。
やる、と彼は一言だけ強く発した。
そうそうやればいい。
同じチームから親友も選ばれている。
相棒と一緒に、強者どもと交わればいいのである。
新しい局面が眼前で拓き、チャレンジがあり、出合いがあり、エピソードに満ちた時間を過ごすことができる。
家で寝てるより数倍エキサイティング。
学びの機会としてはお誂え向きだろう。
それに、地元チームの練習ではどれだけ頑張っても疲れないと言っていたので願ったり叶ったりではないか。
3
全ての休日が、ラグビーに費やされることになる。
県内を西へ東へし、長時間の練習をこなさなければならない。
二男だけでなく、長男についても万全のコンディション作りをサポートしなければならない。
家内は更に忙しくなる。
朝晩、ハザマ薬局から取り寄せたプログリーンを飲み、手料理を食べ、規則正しい生活を心掛ける。
そして、季節は冬に差し掛かっていく。
わしお耳鼻咽喉科でのインフルエンザ予防接種は10月15日からだったろうか。
二人揃って注射お見舞いしてもらおう。
そして、たかおか歯科クリニックで、マウスピースを新調だ。
あれこれとテキパキ段取り良く進めていかないと、時間に置いていかれる。
時間活用に長けざるをえない年末となっていく。
長い目で見て、とてもいい経験になることだろう。