1
事に臨んで心に火をつける。
そのような必要が生じたとき、ロッキーやベストキッドもしくはミッション・インポッシブルのテーマを聴いて気持ちを高めたり、はたまた人によってはオールブラックスのハカの動きをなぞり「カマテカマテカオラカオラ」と腹から声を絞り出す、もしくはブルース・リー真似てアチョーと唸って一発回し蹴りしてから虚空を睨みフューと長い息を吐く、など種々様々な導火線的試みがなされる。
内向的な人の場合には、書をひもとき燃焼性の言葉を探し手帳に書くといった一見不活性だが本人にとってはそれが一番ツボにはまるというやり方もあるかもしれない。
本屋に行けば、自己啓発コーナーに発火性ありと説く書物が並ぶが、書物にそうした期待を抱く者が絶えないことの証左であろう。
そして、いつか気づくことになる。
あの手この手講じようが、それで心に火がつくことはない。
オールブラックスが、カマテカマテと叫ぶのはすでに心に火がついてしまっているからであって、叫んで火がつく訳ではない。
心に火をつけようとする行為は、実は一種の現実逃避なのだと、本質を見抜く人は少ない。
2
ぶつかって行かなければならないのであれば、ぶつかっていくだけのことであり、そこに意欲云々が介在する余地はない。
やる気があろうがなかろうが、やらねばならないのであれば、やるだけのことである。
ここで意欲を高めるなどといった話に寄り道するのは、要は問題を回避しているに過ぎない。
やればやる気が出てくるというのが事の真実であり、やる前に既にやる気が生じることなど、まれなことである。
3
事に臨んでは、火をつけるなどと息むより、弛緩した方がはるかに効果的だ。
心身の力がいい具合に抜けている方が、余念なく事に入っていけるし、状況に順応しやすくなる。
取り組む対象が重たければ重たいほど、余計なことは考えずリラックスして軽やかにその領域に入っていく、そう心掛けた方がいい。
そこでオススメなのが、「オースティン・パワーズ」の出だしの場面である。
アホすぎて心身軽やか脱力できる。
マイク・マイヤーズ一座が「ソウル・ボサ・ノヴァ」のリズムでツイストすれば、オールブラックスをも蹴散らすことであろう。