KORANIKATARU

子らに語る時々日記

こうして素寒貧な一日が幕を開けた。


朝5時、真闇な通りの向こうになか卯が見える。
飯食う人で席が埋まっているのが遠目で分かる。

なか卯での朝食はあきらめ手前側にある牛丼屋に入った。
朝食セットを食べるつもりだったのに、なぜだろう、カレーライス330円のボタンを押した。

具のないカレーが目の前に置かれたと同時、誰かがトイレに入る。
扉一枚隔てただけの場所にトイレがある。

トイレに入ったままその人は出てこない。
どうやら小ではないようだ。

余計なものが頭に浮かんで顔が歪むが、白いご飯とカレーを混ぜてスプーンで口に運んだ。


息絶えそうになる度にコーヒーをがぶ飲みし仕事に精を出すが、お昼には疲労困憊、限界に達した。

12時きっかりに駅前のマッサージ屋に予約もせず飛び込んだ。
運良くその店ナンバーワンのゴッドハンドの順番と重なった。
寝そべってカラダを任せる。

5分ほどして店に新たな客が入ってくる。
その客が私を担当するゴッドハンドを指して言う。
「12:00の予約で施術はあんたやって指名してたんやけど。電話でちゃんと言うたで」

うそ臭い話だ。

しかし、私は善意の人。
いいよ、そっちを担当してあげれば。
スタッフの変更を私の方から快く申し入れた。


後を引き継いだ女性スタッフの仕事はお話にならないほどひどいものだった。

「揉む」「押す」という動作にほど遠い手の抜きようであった。
揉まない、押さない。
これはもはやマッサージとは言えない。

なんとなく撫でられるような時間が続く。
私は空虚な思いのまま横たわる。

しかし、私は慈悲の人。
おいおい、ちゃんと揉めよと文句つけるような不逞の輩とは大違い。

彼女はきっと疲れているのだろう。
私も疲れているから気持ちは分かる。

きっと彼女は切実なのだ。
なんとか適当に流すように時間をやり過ごし、消耗を最小限に食い止めたい。
そのように考えているに違いない。

であれば前世紀の奴隷主ではあるまいし、疲弊した相手を鞭打つような言葉は慎まなければならない。
たかだか60分3000円程度のこと。
目くじら立てる話ではない。

第一、手を抜かれても、私は苦痛でも何でもない。
時間まで寝てればいいだけのことである。
私は小一時間横になって休み、彼女も手を抜いて休む。
みんなハッピー、いいことずくめである。


マッサージ屋を後にしてコンビニに入る。
今まで目に留まることなどなかったのに、どうしてだろう、焼きそばパンが美味そうに見えた。

仕事場で焼きそばパンを頬張って、仕事の続きに取り掛かる。
夕刻過ぎには一日の課題をやり終えた。
しかし、帰宅するのが億劫に感じられる。

環状線高架下にある居酒屋に向かう。
カウンターの端っこに座ってビール飲んで刺身を食べる。
一体どんな店の造作なのだ、私の席はちょうど従業員更衣室の入り口にあった。
バイトの従業員がやってくる度、いちいち立ち上がって席をどかなければならなかった。


近くの銭湯でひとっ風呂浴びる。
初めて訪れた場所であったが、薄汚さに身がすくむ。

ワビサビなら風流だが、ここのお風呂はカビサビ。
かけ湯せぬまま湯船に入る未開人も数多い。

公衆浴場とはよく言ったものである。
お風呂の公衆便所バージョンと言うしかない。

ド近眼であったことがせめてもの救いであった。
二度と訪れることはない。


帰宅する。
一国一城の主の領地は、猫の額程度と相場は決まっている。
北枕の寝床スペースだけが我が統治下にある。

泥のように眠る。
朝など来なくても構わないのに、目が覚めると明け方の時間だ。

そそくさ起きだし、手早く支度しクルマで仕事場に向かう。
ひと気ない街路にあるガソリンスタンドでひっそり給油する。

ガソリンメーターをぼんやり眺め、ふと今朝は必ずなか卯で朝食とろうと決意した。

何であれ出だしが肝心だ。                          

給油ノズルを握る手に力が入る。