KORANIKATARU

子らに語る時々日記

華美軽薄な横着者に囲まれた学生時代の一コマ


週末金曜日、芦屋で仕事を終え直帰の途につく。
Jason Mraz の Love for a child がすっかり日の落ちた街路にほどよく馴染む。
私好みの感傷に浸りつつハンドルを握る。

家では二男の友人らを招いての食事会が催されていた。
我が家に滞在中の従姉妹の女子も混ざって参加している。

皆の元気のいい挨拶に応じつつ、気を使わせぬよう私は彼らから少し離れ楽しそうな談笑を遠目にして夕飯のテーブルについた。

一瞥だけで気付いたのだが、男子皆、テーブルマナーがきっちりと躾けられている。
お茶碗の持ち方、箸の使い方でその人物の背景が透けて見えるが、彼らいずれも申し分がない。
お勉強が達者なだけでなく、挨拶はじめ日常のマナーがしっかりとしこまれている。

どの子もこの子も笑顔あどけなく可愛く、しかし、芯のしっかりした、実は鍛えあげられた男子たちなのであった。


ふと思う。
遠い先の先の話ではあるにせよ、従姉妹の女子は、例えばこのような長男や二男の親交の中から、連れ合いを見つけるようなことになるのかもしれない。

その流れで言えば家内と気が合いしばしば我が家で食事する隣家のお嬢さんたちも、先々、この関係を介して良き人を得ていくのだろうか。

引き続き我が家は長男の友達らが訪れる場所であり、二男についてはこの4月からまた新しい友達を引き連れてくることになる。
長男からの暖流と二男からの暖流が混ざる、暖気絶えることのない文字通りの交流の場となっていくことであろう。

強度きつめの訓練を経た、一端の男子らが集まる。
へらへらふらふら、中身なく浮ついた不心得者などいない。
地味で寡黙な日常を踏破できるであろう彼らは、頼りがいを測る少なくとも第一ハードルはクリアしていると言えるだろう。

そして、彼ら男子たちも、この場所に端を発する連なりのなか、将来一対となる人の縁を見出していくのかもしれない。

であるとすれば、かつて早稲田アウトドア系サークルの装備担当であった私の立場から一言触れておかねばならないだろう。


遡ること四半世紀。
その年の夏休み、東京に妹が遊びに来た。

たまたまサークルの夏合宿前の装備点検の日と重なったので妹も同行させ大学に向かった。

私は装備についての責任者であったので、大学構内でテントを広げ備品を並べ用を為すものかどうか点検する作業を行わねばならなかった。

取り柄の少ない早稲田人ではあるが、このような作業において手を貸さない奴などなく、平素であれば数人がかりで手際よくあっという間に作業は終わる。

しかし、この日は違った。

周辺女子大のチャラチャラした風体の新入りのサークル部員が飲み会などまだなのに装備点検の時間からやってきてしまった。
彼女らは装備になど関心がない。
うがった見方かもしれないが、おそらくサークルの行うアウトドアの活動にも興味がないに違いなかった。

彼女らの心を占めるのは男子のことだけなのだった。

人を助ける早稲田人の取り柄もこのときばかりは封じられた。
やる気満々の駆け出しのギャルにうふんあはんと話しかけられ、彼らは鼻の下をのばし、装備などそっちのけ、初夏の甘酸っぱいお話に夢中となるのであった。

そのような若き異性交友のとば口の様子を横目に私は寡黙に作業を続け、そして手伝ってくれたのは、妹だけであった。

これは異様な光景である。
その異様さに早稲田人なら気づき我に返ると期待はしたが、しかし、彩りを増した木々の緑のもと、うふんあはんの会話はその甘さを増すばかりであった。


何の話をしているのか?
華美軽薄な横着者についての話である。

この出来事以来、私は華美軽薄な横着者という存在を決しておおらかには見過ごせなくなってしまった。

君たちは、人が集まり用事が発生した際全く動かない女性がいることに気付いたことはないだろうか。

人当たりよくええ感じで振る舞うが、それは見かけだけのこと、尻に根が生えたようにどっかと座ってニコニコペチャクチャしゃべり続けるだけで手は動かず足も動かない。

面倒な用事は誰かがすること、用事について当事者としての意識はなく、怠け者、という同性のキツ目の視線もどこ吹く風でものともしない。

これは、外れクジである。
万一、見目麗しくても、手すら触れてはならない。
触れたが最後、君は世界の家事雑事を彼女から指図されて一人背負い込む永遠の奴隷となってしまう。

ごろり横たわって朝から晩まで日がなテレビ漬け、ジャンクフード風味のおなら垂れ流し、その口癖は、「めんどくさい」。
その横で、皿を洗い、床を磨き、家族のパンツを干す。
会社での激務の後、家でも激務の後半戦。
お手つきしてしまったばかりに、そんな地獄のような日常を過ごすお人好しの男子は少なくないのである。


早稲田構内で行われた装備点検において、唯一正しい行動をとったのが、私の妹であった。
だから、先輩のアッキーさんは成就には程遠かったけれど妹に好意を持ちあれやこれやと心を砕くことになったのであろう。

華美軽薄な横着者については実際の場面に即して見破るしか手はないが、要するに面倒くさがりであって、さらに加えて、名も格好も子どもじみたような見栄や自己主張のようなものが強く漂い、どういうわけか育ちのプロセスのなか質朴な女性を見下すような感性が身についてしまっていて、だからこそなのか、他者に対し労を取ることの意味について全く無感覚となってしまったような女性であり、嘆かわしいことにそのような人が実在しているのである。

いつかそのような切り口で異性を見る目が必ず必要となるはずなので、心しておくよう老婆心からくどく一言記すことにした。