1
意気揚々と尼崎の北図書館へ遠征した混成チームはアウェイの地で呆気無く敗れ去った。
寒さ対策となるよう着衣を選んだが冷房は効いておらずただただ暑い。
それに加えて窮屈覚えるほどに混み合い、充てがわれたスペースは狭く、何やかやとガヤガヤとして落ち着かない。
結局勉強は捗らず二男は2時間で白旗を揚げ、上級生チームも3時間で音を上げた。
自習室に行けばもっと勉強ができる、という彼らの仮説はこれにより否定されることとなった。
そもそもが勉強するエンジンが身体に内蔵されていて、勉強へと自らをドライブできる彼らである。
テレビがあろうがゲームがあろうがマンガがあろうが、何とかハンドオフして机に向うことができる。
そうであれば何もわざわざ未知の環境を選択するよりは、慣れた環境でしっかりやる方が無難だろう。
悪条件に見舞われるアウェイ下で本領発揮するにはどうすればいいか、これはまた別の課題だ。
2
特製のジャージャー麺をうまいうまいとかき込む長男と二男を前に、こんがり色よく焼けたチャーシューをつまんで白ワインを飲む。
先日見たばかりの映画「ジョンQ」について話をする。
9歳の子が野球のプレー中に倒れる。
心臓に欠陥があり、移植しないと命がもたない。
父であるジョンQはそう医師に告げられる。
不況の煽りで工場では労働時間が短縮され、ジョンQもその対象者であった。
賃金は目減りし、ジョンQが加入する医療保険ではとても子の治療費を賄えない。
ジョンQはどうするのか。
子が先立って死ぬなど受け入れられることではない。
ジョンQは言う。
「おれは子を埋葬するのはごめんだ。子がおれを埋葬するのだ」
ここから先のストーリーについては、子らには話さない。
長男がジャージャー麺をお代わりし、二男も競うようにお代わりする。
私の前には豆を煮た料理とキャベツの酢物が出される。
同じ食卓に並ぶ白ワインにとっては役不足なことであろう。
子らに言う。
今日は父の日だけれど、何も要らない。
順番通り、いつか二人で私を弔ってくれればそれでいい。
私がジョンQなら、ジョンQもそうであったように、適合しようがしまいが喜んで心臓くらい君たちに進呈しよう。
ママもきっとそうだろう。
3
月末にかけ、煩忙さが増す。
いつにもまして気の張る月曜朝である。
今朝は3時に目覚ましが鳴った。
これで長男が起き、引き続き5時に目覚ましが鳴って、二男が目覚めた。
その起床を確認し、私は事務所へとクルマを発進させる。
日記を書いて、この先数日間、仕事に没頭することになる。