KORANIKATARU

子らに語る時々日記

狭間研至著「薬局マネジメント3.0」を読んだ。

7月最後の日曜日、アマゾンで予約注文していた狭間研至著「薬局マネジメント3.0」が届いたので早速読んだ。

内容が濃く深く、かつ分かりやすく、たいへん学びの多い読書となった。

タイトルには薬局とあるが、単に薬局だけが俎上に載せられるのではない。
著者の考察の射程は広く論考には奥行きがあって、薬局を論じるうえで必要不可欠となる背景を余さず照らし的確に捉えていく。

薬局という切り口でその今昔を俯瞰しつつ、縦軸においては医療行政の変遷、また医療行政が将来的に掲げようとする理念を読み解き、横軸においては医療現場が置かれた現状の分析に加え、ガソリンスタンドやコンビニなど同時代の事業を参照しつつ論を構築していく。

論述は非常に丁寧、精緻であり、差し挟まれるであろう読者の疑問について常に先回りし応えていくような、痒い所を放っておかないきめ細かさに満ちている。

著者に導かれ、薬局と薬剤師が直面しようとしている時代の分岐点が明快に理解でき、次世代の薬局、次世代の薬剤師のあるべき姿が論理的な帰結として浮き彫り明瞭となる。

加えて、経営戦略の書としても秀逸だ。

中小企業の事業主であれば、本書で取り上げられた戦略論はどれもこれも有用であろうし、その戦略の運用について具体に語るのであるから、まさに手取り足取り学べ、薬局はもちろん他事業者であっても、目から鱗請け合い、役に立つアプローチに溢れている。

経営戦略の書としての山場は、薬局3.0という在り方での理念をそのままに、採算性をどのように確保するかという格闘とも言うべき思考と試行錯誤の部分であろう。

事業主としてくぐり抜けてきた艱難辛苦とその光と影の影について開け広げ涼しげに著者は語り、忌憚なく冷静に、そしてあくまでも謙虚に、自らのこれまでの差配を評価しその可と不可を断じていく。

行間には従業員への強い思いがいくつも汲み取れ、人間狭間研至の有り様が等身大で伝わってくる。

そして、「七転八倒、四苦八苦」の甲斐あって、ようやくのこと問題解決の糸口が見いだせた。
「社長、ようがんばりましたな」
支援し続けてくれた銀行の支店長の言葉だ。

まさに狭間研至の集大成。
医師であり碩学の徒であり、そして、いまや真に経営者に至ったという印象的な場面である。

長い奮闘の軌跡の末、狭間研至がいよいよその成果を本格的に社会に還元する地点に到達したと言えるのだろう。

最後に。
以上述べたように、本書は多面多様な趣きを見せ読み応え十分なのであるが、私が最も感動したのは、この本がひとつの小さな歴史の書ともなっている点である。

ハザマ薬局の先代である母について語る場面が所々に見られる。
先代の背を見て育ち、引き継いだバトンには、その志が今も息づいている。
だからこそ、と分かって胸が熱くなる。
薬剤師の在り方と立場について、ここまで深く考え抜いた人物はそうそういないであろう。
先代含め、最大限の敬意を表したい。

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