KORANIKATARU

子らに語る時々日記

届け最高美味

急遽入った仕事を完遂するため事務所総出となった。
各役所へとそれぞれが一番乗りするような勢いで一日を始動させる。

昼過ぎには全員が首尾よく任務を達成し締切まで二日を残し無事役目を果たすことができた。
事務所の面目躍如である。

ほっと一息つくとき、何が美味いといってコーヒーに勝るものはない。
喫煙者であればここで紫煙も欠かせないであろう。

そのように前倒しで動いて余った時間、私は荷造りに勤しむ。
長男のメールにどん兵衛でいいからうどんが食べたいという何気ない記載のあったことが心に留まっていた。

私もその気持ちがよく分かる。
かつて長期で旅したとき、イギリス街中の乾物屋で焼きそばUFOを見つけたことがあった。
舌に馴染んだ麺類への飢餓感が極みに達していた。
日本円で500円ほどはしただろうか。
値は張ったが躊躇なく複数買って宿へと戻った。

それまでさほど口にする習慣もなかったし、それを美味いと思ったこともなかったけれど足取りはルンルン、心ウキウキ。
私の頭のなかUFOが大挙し飛び交っていた。

このときばかりは3分も待てずであった。
急いて湯を切り、フォークですくって麺を大口で頬張った。
うまいのなんの。
日頃見向きもしなかった焼きそばUFOが異国においては七色の光放つ存在となったのだった。

だから私は長男にも送る。
彼も日頃は口にしない。
しかし浜辺で食べるカップヌードルが格別である以上に極寒の異郷で食す即席麺は彼を魅了して止まないことであろう。

郵便局で大きめの箱を買う。
スーパーで即席麺を選ぶ。
UFO、どん兵衛きつね、どん兵衛天ぷら、これら定番に加え、コンビニでペヤングを買って付け加えることも当然に忘れない。

詰めに詰めて17食。
仲間に分けても十分残る。
箸は?と聞かれ、いらないと答える。
西側諸国にあってはフォークを使うのが流儀であろう。

スーパーに無造作陳列され目を引くこともないカップ麺が、彼の地において絶品秀逸の光を帯びる。
戦場においてマルボロが貨幣価値を有するのと同じこと。

宝の山を箱に詰め郵便局へと向かう。
届け最高美味とカウンターに荷を差し出す。

が、そこではじめて知らされる。
肉はご法度そのエキスすら許されない。
だからこの郵便は相手へと届かぬ可能性がある。

中身が三千円強で送料が七千円弱のしめて一万円。
追跡番号を連日睨み、これら万の麺らの行方に私は手に汗握ることになる。
遠く旅立ったUFOを想って寝汗かきかき私は夜毎うなされるのであろうか。

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