JR尼崎駅が広く綺麗になった。
同じく広く大きくなった同駅構内の本屋に立ち寄る。
木暮太一さんの新作「したたかにつかみとる覚悟の話」が平積みされていたので購入する。
小一時間ほど時間調整が必要であった。
キューズモールへと向かう。
阪神百貨店の二階売場が閉鎖されている。
大幅にテナントを入れ替え三月に新装開店となるようだ。
開業してかれこれ五年。
客の入り具合は芳しいものではないのかもしれない。
昼食を済ませるため四階に上がる。
ご老人の姿が目につく。
グルメフロアにはあちこちソファが置かれているがどこも老人で埋まっている。
買物の休憩でといった風ではない。
所在ない様子でただ椅子に腰掛けぼんやり視線を彷徨わせている、そのように見える。
どこへ行くともなく外出し、腰掛けるにしても公園のベンチでは寒すぎて、何とはなしにここに到達しひととき過ごしている、といったところだろうか。
わたし自身は仕事という荒縄に引かれ、行きがかりでここを通過している。
自分にその縄がなければ、と想像してみる。
することもなく予定もなく家にいるのも気詰まりで無駄遣いは慎まねならずといった状況であればこのような過ごし方に行き着くであろうとごく自然に思い浮かぶ。
お金もかからず心置きなく座って過ごせる場所は他に思い当たらない。
ご老人の方々すればショッピングモールが地域にあることの恩恵は大と言えるだろう。
蕎麦屋に入って時間を潰す。
買ったばかりの本のページを繰る。
シリーズ四冊目。
前三作「命より重いお金の話」「勝つべくして勝つ働き方の話」「どん底からはい上がる生き方の話」を全て買っている。
どの作品も心しておくべき著述に溢れている。
曰く、
見せびらかしの消費ではいくらお金があっても足りなくなる、
使えば使うほど一円が軽くなる、
自分の買いたいものを自分の労働時間に換算すればその重みが分かる、
心をスリムにする、
若い頃から貯めるべきものはお金ではなく働き続けられる能力、
他人を寄せ付けないほどの圧倒的な積み上げ、独自路線の積み上げだけが差異を生む、
楽から得られる至福はすぐになくなってしまう、
仕事自体に楽ではなく快を求める、
意思は有限、意思を維持する環境を整える、
エトセトラエトセトラ。
いまの時代を幸福に生きるための心得について、お金、働き方に焦点をあて真摯に考え抜く著者の姿勢に強い共感を覚える。
これら著作をいつか子も読み参考にするであろうし、わたしも目を通し様々学ぶ。
今回の著作も汲み取るべき内容に満ちていた。
情報の受信に重きを置く日本人的慣習からいち早く解き放たれるべきであり、今後は情報の発信に注力した方がいいという時代認識に加え、日本人にありがちな「いつか誰かが評価してくれる幻想」から脱し、自身が奮起し前に出て実現のため邁進する必要があるだろうという話に強く頷かされた。
面談の時間が迫って席を立つ。
ご老人らが座るソファの横を過ぎエスカレータを使って出口へと向かう。
静かな境地に至る余生などと言えば甘美に響くが、しかしもし実際にそのような時間を過ごすとなれば退屈で仕方ないであろう。
仕事の縄に引きずられたまま、ああでもないこうでもないと賑やか騒いで最後の一滴まで振り絞って仕事する。
その方がよほど楽しい、そう思えた。