KORANIKATARU

子らに語る時々日記

UFOらの太平洋横断

長男からメールが届く。
放課後に街で映画を観たという。

その末尾に荷物が無事届いたとの追記があった。
中身も全て揃っているということであった。

発送から長男の手に渡るまで丸一週間を要したことになる。

追跡画面を時折確認してはいたが、数日に渡って通関手続中の表示が変わらずやきもきしていたところだった。
郵便局の窓口にて釘刺されたように、牛肉成分の表示があるだけでNGでありおそらくそのような成分が入っていたに違いなく、届け美味と願って送り出したUFOらは没収廃棄という迎撃対象となる運命なのだろうと半ば諦めていた。

ところがUFOらは無傷で長男のもとへと舞い降りたのだった。

メールの文面から長男の喜びようが伝わってくる。
微か忍び寄るホームシックを紛らわす、彼にとって絶妙のタイミングでのUFO参上となったことであろう。

喜ばしいことである。
わたしもささやか祝杯を上げることにする。

仕事が無事に終われば当然に祝杯、ほっと一息ついたくらいでも祝杯なのであるから、UFOら全機が太平洋を横断した日も祝杯となるのは言わずもがなである。

八尾からの帰途。
天王寺駅で途中下車する。
足は正宗屋に向かう。

下町風情が中心の客層だが、味の良さを聞きつけてのことであろう結構な身なりの紳士淑女もチラホラ目にする。
澄ました感じの女性と庶民臭漂う女性が居合わせる。
この一見奇異なコラボレーションが面白い。
連れの男性の社会的な属性は異なるものであろうが、ここ正宗屋では均される。
どて焼きの前ではみな平等。

わたし自身のお気に入りどころを控え目に注文していく。
なにしろ家に帰れば夕飯が待っている。
いまさらこの時間に夕飯不要とは口が裂けても言えることではない。
その分の腹を空けておかねばならない。

おでんすじ、カツオたたき、いいだこ煮、どて焼き、ぶた炙り。
瓶ビール二本にハイボール。

いつだって正宗屋は素晴らしい。
もっと耽溺したいがそこらでブレーキを踏む。

いつか息子を伴って訪れたい。
美味な料理の数々はUFOなど圧倒凌駕し寄せ付けない。
ここで親子酒ができるのであれば、男親冥利に尽きるというものであろう。

鼻歌まじりに家へと帰る。

さあ、これからが正念場。
男底力の見せ所である。
正宗屋のことなどおくびにも出さず、ああ腹減ったと空腹男子になり切る。

うまい、うまい、お酒をもっと、とガツガツ食べて飲む。

がしかし思った以上に早く限界が訪れた。
もう箸を口に運べない。
気力でカバーできる範囲を超えていた。

だからといってお腹がいっぱいなどと白状する訳にもいかない。

とっさにわたしは頭を抱える。
うっ、頭が痛い。

まさに窮すれば通ず。
我ながら名案だと思えた。

ちょっと疲れがたまっているのだろう、頭が痛いから横になるよ。
そう言ってわたしは食卓を離れた。

横になると極楽。
うっかり鼻歌が出ないよう注意し食卓の方を見る。

すべてお見通しといった顔で山の神がにやりと笑っている。
もうしません、せっかく美味しい手料理こさえてあるのに寄り道するなどもうしません。
私は心のなか何度も唱えた。

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