KORANIKATARU

子らに語る時々日記

いいことすると気分がいい

蝉の鳴き声が耳に入る。
日常に埋没し昨日と同じ今日が繰り返され季節感はすっかり鈍麻しているが、まもなく梅雨が明け日本の夏がやってくる。
そう蝉によって知らされた。

本格的な夏の到来を思って血が騒ぐ。
さあ腹ごしらえと昼食のため牛丼屋に入る。

食券機を前にする。
釣り銭550円が残ったままになっている。
レバーをひねると釣り銭口に550円がじゃらじゃらと流れ落ちてきた。

それを鷲掴みにしてポケットに入れる。
ということをするはずがなく、誰か忘れてるよと全額耳を揃えて店員に手渡した。

店員がその場で飯食う客らに声をかける。
お釣りを忘れらた方いらっしゃいませんか?

一人女性が手を上げた。

半券を店員が確認する。
450円のものを注文していたようなのでお釣りの額と合致する。

いいことすると気分がいい。

客先へと向かうため地下鉄を使う。
電車が難波駅に入って大勢が降りる。

ふと見るとわたしが座るシートの左端に携帯が置かれたままになっている。
誰かが忘れて電車を降りたに違いない。

状況判断に迷う。
どうするのが最良か。

ドアが閉まるすんでのところ、わたしはその携帯を掴んでホームに降りた。
そこで動かず、わたしはその場で携帯を頭上にかかげた。

待つこと数分。

血相変え階段を駆け下りてくる者が向こうに見えた。
いまや携帯は命の次の位置を占める。

その初老の男性はわたしが掲げる携帯にすぐに気付いた。
安堵したのか、その形相が瞬時に和らいだ。

わたしのもとに駆け寄って、おじさんが言う。
どこにありましたか。

電車の座席のうえに置いたままになっていました。
と言って、手渡した。

おじさんは自身に言い聞かせるように何度も何度もよかったよかったと口にし、わたしに礼を述べた。

では、とわたしはスタスタと出口に向かう。
しかし難波に用はない。
途中で引き返し、わたしは次の電車を待った。

いいことすると気分がいい。

仕事を終えて帰宅し、家でわたしはその日の善行について家族に語って聞かせた。

食後、家内がアロマを使って耳つぼマッサージを施してくれる。
これをしてもらうと体調が段違いで良くなる。

カラダがたちまち軽くなり、寝起きも爽快。
この気分のよさは、善行に匹敵すると言えるかもしれない。