電話が鳴った。
家内と顔を見合わせる。
結構遅い時間である、一体誰からの電話だろう。
家内が受ける。
長男の学校の先生からだった。
こんな時間まで仕事しているなんて。
熱心なことである。
それにしてもうちのバカ坊主は何をやっているのだ。
長男は西北で勉強中だったが構わずショートメールを送る。
「宿題が出てないらしいで」
「出してる、先生の勘違いや」
即座に返事が来た。
ちょうど休憩中だったのだろう。
先生が勘違いするはずがない。
いや、出している。
机の上にテキストがある。
提出済みのサインももらってる。
わたしは彼の部屋へと足を運ぶ。
それらしきテキストは見当たらない。
ない、とメールするとすぐにまた返信があった。
あっ、こっちにある。
カバンの中にあったわ。
ウソ臭い展開だ。
証拠として写メを送れ、と伝える。
学校の先生へもCCにして送れ、と付け加える。
しかし待てど暮らせどメールが届かない。
催促すると彼は言う。
送った。
その一点張り。
来ない。
送った。
メールを通じて押し問答が続く。
往生際が悪すぎる。
この期に及んで、送った、と小ウソを重ねるのか。
小ウソつきの末路はそれはそれは悲しい。
正直に非を認める方が前途開けて身のためだ。
そう告げる。
しかしそれでも彼は観念しない。
宿題は提出した。
サインももらってある。
写メも送った。
今まで課題を提出しなかったことはない。
一瞬信じかけ、一瞬後正気に戻る。
先生が遅い時間に電話までしてくるほどの事態だ。
提出済みであるはずがない。
そこまで断言すれば、もはや小ウソでは済まされない。
正真正銘、嘘偽りのない大ウソだ。
はあ?
それを最後、返信はこなくなった。
ばつが悪すぎて敷居が高くなったのではと心配していると、門の開く音がした。
ただいまも言わず彼は和室の戸を引いて、テキストをわたしに向かって静かに放り投げた。
表紙を見る。
サインがしてある。
まさか、、、
もしや、、、
わたしは彼に言う。
これ、自分で書いたのか。
先生に見せられないわけだ。
だからメールできなかったのか。
と、そのときになって着信音が立て続いた。
長男が発した写真添付のメールであった。
CCに先生のアドレスも入っている。
どのような加減でそうなったのかは分からない。
一番肝心のメールの送受信に時差が生じ、その時間差が真実の行く手を阻んでいたのだった。
あやうく父子の信頼に亀裂が入るところであった。
おれはおまえを信じていたよ、最初から。
疑ったことなどこれっぽちもない。
ウソじゃない。
わたしは息子にそう言った。
身の潔白が証明できたのを見届け、長男は無言で和室を去って行った。