人より4時間は早く一日のスタートを切るのでたいてい夕刻には仕事が終わる。
仕事後の脱力をほんの少しだけ先延ばしにして、暑さの一段落した川べりを走る。
この日はライバルが出現した。
後ろから迫ってきたスキンヘッドの彼は、わたしに追いつき、しかし追い抜かすのではなく、並走し始めた。
闘争心が起動する。
わたしは前に出る。
ピッチを早め差を開けようとするが、しかし思うほどには足が運ばない。
まもなくまた追いつかれ並走する格好となって、わたしはそこでまた底力を発揮しなければならない羽目となる。
そのような不規則な走りを繰り返し、やがてわたしは足もつれるほどの鈍足ランナーと化していくのだった。
今度はわたしが置いて行かれる番となった。
気付けば、スキンヘッドの背がどんどん離れていく。
スキンヘッドは電車に興味がないのだろうか、阪神電車の高架のはるか手前のところで折り返した。
スキンヘッドとすれ違う。
わたしはまだ先へと走る。
南へとひた走り43号線地点で北へと向きを変える。
ペース乱れていつもよりきつい。
ゆっくりゆっくり前へ進む。
陽が傾く頃合い、ジョガーの姿が目立ってくる。
一日のあれやこれやを終えひとっ走りすれば、心身にすくったモヤモヤが晴れていく。
その晴れ具合は癖になる。
顔歪めて走っていようが、奥底では心地よさ極まれりといった様子であることが窺える。
遠く離れて見えていた武庫大橋が間近に迫ってくる。
この橋が川べりの景観を情緒あふれるものにしている。
と、さっきのスキンヘッドの後ろ姿が見えた。
百メートルほどの距離だ。
決着をつけねばならない。
わたしは最後の力を振り絞った。
遅々と走る彼を捉えるのは容易であった。
並走することなく抜き去る。
追ってくる気配はない。
わたしはラストスパートをかける。
ぐんぐん彼を引き離す。
倦まず弛まずが勝利を導く。
勝ったのはわたしであった。
勝利の余韻にひたりつつ、帰途コンビニに寄る。
缶ビールを買って、天を仰いでゴクリ飲み干す。
生きてあることの喜びがこの瞬間に凝縮される。
子らも同様。
二男は部活を終えて仲間とコンビニでジュースを飲んでラーメンを食べる。
長男も練習を終えて先輩とジュースを飲んでラーメンをかっ食らう。
奮闘があってこそ至福の時間が一層輝く。
家に戻ると家内がいそいそと肉を焼いている。
明日から合宿となる二男の好物が今夜のメニューだ。
学校から長男が戻り部活から二男が戻り、家族が勢揃いしての夕飯となる。
家族あることの幸福が夕飯の時間に凝縮される。
早起きなど何の苦にもならない。