半袖だと少し肌寒さを覚える。
雨滴混じりの風がときおり強く吹く。
クルマに乗り込み早朝の道を事務所に向かう。
ラジオのニュースが警報の発令を告げ注意を呼びかけている。
案の定、午前7時過ぎ、二男の学校から休校となる旨のメールが届いた。
一方、長男の学校はこの日芸術鑑賞会。
台風であろうがトーテムは行われる。
かねてから二男にも見せたいと思っていた。
ちょうど都合よく学校が休みになったので二男も参加させることにした。
家内がクルマで会場まで送るという。
こうして長男の学校の芸術鑑賞会に、保護者席に座る形で二男も潜り込むことになった。
昼を過ぎ、台風が近畿の鼻先に接近してきた。
この分だと直撃は避けられない。
出先からの帰途、クルマで中之島に向かう。
トーテムの終幕が午後2時過ぎ。
電車が動かなくなることを想定し、会場である中之島ビッグトップのそばにクルマを停めて待機する。
通りを歩く人を見かけるが傘など何の役にも立たない。
空気中から沸いて吹き出すみたいに雨が逆巻き視界を塞ぎ、風に煽られ歩道の樹木が激しく揺れる。
小枝や葉などは見る間に吹き飛ばされて、もちろん傘など原形を留めない。
わたしは時間つぶしにと車内でDVDをセットする。
映画「13時間」。
前夜途中まで見ていたが、ちょうどこの待ち時間を使って見終えることができる。
2012年9月11日、リビア・ベンガジの米国領事館とCIAの拠点が襲撃され、米大使他数名の職員が殺害された。
当初米国政府の発表によれば、モスリムを中傷する動画が発端だということだった。
その動画を見て怒った群衆らが起こした突発的な暴動だとニュースでも報じられた。
しかし後年、この暴動はアルカイダが組したテロ行為であり綿密に計画されたものであったことが明るみになった。
米国政府は事前に情報を得ていたにも関わらず対策を怠り、かつ、暴動の際も積極的な救出活動を行わなかった。
責任ある立場にあったのが当時のクリントン国務長官であった。
今秋の大統領選を控えベンガジの真相が取り沙汰されてヒラリーの責任を問う声もちらほら聞こえる。
映画では、モスリムの神経を逆なでする動画が引き金になったという政府発表に即しストーリーが展開されるが、現地の米国職員が孤立し窮地に追い込まれ、まるで見捨てられたかのよう、救援も来ないという切羽詰まった状況に置かれた事実については忠実に描かれている。
敵に包囲され死の恐怖がひたひたと迫ってくる緊迫感に手に汗握り、同時にこれは遠い異国で起こった他人事ではなく、日本だってちょっとした綾でこうなるのだと気付かされる。
例えば日本が他国に攻められたとき、ベンガジの米国領事館でさえ見捨てたかのようなアメリカが、日本を助けてくれると信じるなどお人好しにもほどがあるかもしれない。
救援は来ず、破壊され続け、死の恐怖に晒されそして無慈悲に殺される、そういったことの可能性まで考えて、それを阻止できるような自前の備えが必ず必要であろう。
そのように考えつつニュース番組に切り替えるとちょうど台風は近畿の真上にあった。
その頃、トーテムが終了し、わたしのクルマが邪魔だったのか移動するよう警備員に急かされた。
意味が分からないふりをしようとするが多勢に無勢、移動せざるを得なかった。
居場所を伝えるメールを送ると子から即座返事がきた。
みなで飯を食って電車で帰る。
迎えは不要。
台風直下の中之島。
油売っただけの昼下がりとなった。