夕飯の後、ウォーキングに誘われた。
午後の陽気がウソのよう。
寒気に覆われ夜は真冬並みの冷え込みである。
白い息を吐きながら家内に付き従って界隈を歩く。
途中スーパーに寄る。
広告の品は一人2個まで。
家庭用洗剤などが大安売りとなっている。
なるほど、合点がいった。
頭勘定にわたしも入れれば、計4個。
あれもこれもと全種4個ずつ揃えればかなりの量で腕ちぎれるほどの重さとなる。
誘い出された訳である。
両手に荷物を引っさげて、来た道を引き返す。
一緒に歩きつつ感心する。
男子であれば、少々安いくらいでわざわざ足を運ばない。
節約するなら他に方法も思いつく。
安売りに惹かれたところで、チリが積もってヤマになるわけがなく、チリはあくまでチリのまま。
そう思うから、不肖男子はチラシを手にとることさえない。
一方、女子は身を置くフィールドが男子と異なる。
一種の生活ゲームに参戦しているようなもの、と言えるのかもしれない。
金銭にガツガツするというよりは、ゲインとロスを競うゲームのような感覚。
ゲインすれば任務を全うしたようなものであり、この満足感は果てしなく大きい。
だから、帰途の家内はすこぶる機嫌がいい。
春の旅行について話題はもちきり、もう寒さはどこへやら、である。
毎回違った場所を訪れるのでなければ旅行じゃない。
その持論にわたしも賛成。
世は未踏の地に溢れている。
だから候補地について話は尽きず、話題にするだけでやたらと楽しい。
そのようにご機嫌麗しく帰宅したのであったが、リビングは戦場と化していた。
ちょうどいまが試験中。
この時期だけは目の色変わって、能率ともかく、子らはふれたように勉強すること余儀なくされる。
レベル高く分量多い。
そんじょそこらの負荷ではない。
とくに兄貴の学校が求めるハードワークは、意気地なければ到底耐え抜ける域のものではないだろう。
わたしであれば身がすくむ。
助け求めてシクシク泣き出すかもしれない。
そうは思うが、黙って見守る。
乗り越えてこそ男子。
先々立ちはだかる壁はもっと高く分厚く、坊っちゃんお嬢ちゃんではあるまいし、これくらいで滅入っている場合ではない。
だから心を鬼にし尻叩くのであるが、もちろん一方で、こまめな給水も欠かさない。
我が家の給水担当は家内。
わたしは先だってペヤング買って罷免された。
あれやこれや消化の良い食べ物をたんと用意し、彼らがクタクタになれば、家内十八番のアロマのマッサでその疲労を和らげる。
このときも長男が首を回して、疲労の色が濃くなっていた。
その肩に手を置いて、ちょいちょいと家内がミントのアロマでマッサを施した。
一服の清涼とはまさにこういうことを言うのだろう。
子らに続いてわたしもアロママッサをしてもらったが、たちまち呼吸が楽になり、重い荷を運んだ疲れもやわらいだ。
特技あるのは素晴らしいことである。
家族のためにと学んで覚えたアロマとマッサが、実際に我が家男子の奮闘に大いに役立っている。
ふと思う。
このような何気ない一場面、そっと肩に置かれた手の温かみを、子らは生涯忘れることはないだろう。