北新地駅で待ち合わせ、堂島方面へ向かう。
途中、子の土産に音羽巻を買いダルマイヤーで子のおやつを見繕う。
それでもまだ時間があったのでライトアップされた中之島ガーデンブリッジに足を向け途中まで渡った。
春の風に吹かれつつ堂島川をぼんやり眺めてひととき過ごす。
時計が午後8時を指した。
ダイビル二階に向かう。
わたしたちが一番乗りであった。
窓際の景色のいい場所に家内を座らせわたしはその隣に腰掛けた。
8時を少し過ぎ、この日のメンバーが一人また一人とランウェイを闊歩するスターみたいに姿を見せ始めた。
まもなく乾杯。
いよいよ、ほうば体験のはじまりはじまりとなった。
まずはナムルが豪勢に並べられた。
豊かな彩りが、場に華やぎをもたらした。
続いてチヂミ。
まん丸ふっくらなカキがキレイな焼き目に包まれて、食べるのが勿体ないと一瞬思うが、一口含めばもう箸が止まらない。
ビールがすすむ。
次に置かれたのが、蛤のスープ。
絶妙の歯ごたえで食感よく、その美味しさに家内は驚きの声を上げた。
ここらまでは前菜と言えるのだろう。
主軸どころのお出ましに備え、わたしは飲むお酒をビールからマッコリに変えた。
まろやかであって、ほどよい酸味でキレもある。
こんなマッコリは飲んだことがない。
そう家内に話していると、唐揚げが運ばれてきたのであったが、これが単に大ぶりであることだけを特長とする唐揚げではなかった。
中身はフグ。
数々のてっちり屋で様々なフグの唐揚げを目にしてきたが、これほど立派な体躯のものにはお目にかかったことがない。
分厚い肉厚が柔らかく、一口噛むだけで身も心もとろけてしまう。
こんな美味しいものにありつけるなんて、なんて幸せなことなのだろう。
そうしみじみ感じて、沈黙のなか口だけ動かし生きて在る喜びにひたった。
そして見せ場の次にはひと休み。
ドラマでも食事でも同じこと。
巨大なフグのあと、チョイ役箸休めとして登場したのが、ウニの小皿であった。
が、脇役のくせして、主役級。
ウニのバックに控える種々の食材がウニを一層引き立て、鮮やかハーモニー奏でるみたいに見事な一体感を醸し出す。
味音痴であるわたしであっても、一体これは何なのだと考え込みそうになるが、所詮は味音痴。
その音色の細部まで捕捉できるはずもない。
美味しいのだからそれでいいではないか。
そう思って一口一口を噛みしめた。
魚組代表のフグの向こうを張って、ラストを飾る大トリは、高く積み重ねられた分厚いカルビ。
カルビは生命に直接働きかける。
一口ごと熱情に火を灯されるかのよう。
ふわり柔らかくコクがある。
白いご飯とカルビが互いを補完し合致して、完全美味が現出しわたしたちをどこまでも魅了した。
忘れがたい一夜となった。
この日集まった仲間の結束は更に強固なものとなったと言えるだろう。
美味体験の共有がもたらす恩恵は計り知れない。
ほうばのウニやフグや分厚いカルビが、わたしたちの人間関係の新しい次元を切り拓いたと言え、つまりこの夜、わたしたちは単に何かを一緒に食べた、という以上の共通体験を得たのであった。