KORANIKATARU

子らに語る時々日記

子の寝息ほど心安らぐものはない

運動会が終わる時刻、学校前にクルマを停めた。
校門前ではどこかの塾のスタッフがせっせと団扇を配っている。

夕刻を前にしても日差し強く照りつけ一向に衰える気配がない。
行く人みながちょうどよかったという感じで団扇を受け取っていく。

まもなく車内に家族が揃った。
さあ、ここからが我が家の日曜日である。

いざ、出発。
えびす町から高速に乗って一路西へとクルマを走らせた。

一時間もかからぬうち、至るところコンクリートとアスファルトというさっきまでの景色は一変した。

六甲山地の奥の奥、秘境とも言える地に拓けた温泉街。
わたしたちは有馬温泉に降り立ったのだった。

有馬グランドホテルのカウンターでお風呂のチケットを購入し、まずは腹ごしらえ。
二階の居酒屋花のれんの一角に陣取った。

ちょうど旬である鱧を筆頭に、刺し身、天ぷら、揚げ物から肉料理、各自思い思いに注文し、わたしは毒見役さながらあれにもこれにも箸をつけていくのであったが、一番美味しかったのはおでんであった。

帰りは家内が運転してくれる。
それで遠慮なく強炭酸の白州ハイボールを料理とともに心ゆくまで味わうことができた。

家内も話すが、わたしも話す。
家族によれば、ときにわたしは家内の二万語を凌駕するという。

腹も膨れて気も済んで、いよいよメインイベント。
地下の大浴場へと場を移した。

なんて贅沢な風呂なのだろう。
設えもいいが、何より湯の香りがいい。

それに加え、間近に迫る森林からしんしんと香り高い夜気が押し寄せるものだから心の淀みがあっという間に取っ払われて、湯加減ほどよく、カラダの疲れもじんわりやさしく癒えていく。

男連れ立って感嘆まじりの溜息やまず、わたしたちは山麓の地に湧く幽玄の湯に魅了されっぱなしとなった。

夜、聞き慣れた寝息を運んで山道を下る。
親にとり子の寝息ほど心安らぐものはない。

規則正しく響くその音色が静けさにほどよく調和し、時間を濃密なものにしていく。
たった半時間の帰路であったが、誰と一緒に生きているのかひときわ鮮明となるような夜道と言えた。

家族で日本各地を旅し様々な風呂に入ってきた。
が、灯台下暗し。
素晴らしい名湯がこんな近くにあったのだとしみじみ感じ入る日曜の夜となった。