なかなか寝付けないようなので横並び寝転がってあれこれ話す。
はじめての一人旅であり遠路行くことになるから緊張するのも当然だろう。
独り言のように彼が言った。
イッテQみたいなもんやね。
言い得て妙。
まさにそのとおりである。
いろいろ考え巡らせイッテQにたどりつき、それでずいぶんと気が楽になったように見えた。
番組を見て笑うばかりで深く考えることはなかったが、イッテQの存在は案外大きく、羽ばたく青少年らを勇気づける良き啓発番組の側面を有すると言えるのかもしれない。
朝5時にはみな起き出して、荷造りの再チェックを始めた。
トランクのなか受験の際に集めた各地神社の合格鉛筆があり、奈良の地図や駅のラックにあるような日本各地の旅行リーフレットが束になって入っているのが見えた。
さすが家内のセンス。
寄宿舎内で二男が催すのかもしれないジャパン・ナイトの出し物に不足はなかった。
これらアイテムがきっかけとなっていつか我が家を訪れる異国の友人があれば万々歳である。
朝6時を過ぎ家を出た。
予報では朝方雨となっていたが、まだ降る気配はなかった。
持ってくれるような気がして傘は持たなかった。
毎度恒例、まずは地元の神社に寄って3人で手を合わせ、一路伊丹空港に向けクルマを走らせた。
流す音楽は二男がチョイスしユーミン。
ちょうど長男の受験直前クルマでよく流していた曲である。
緊迫の家族大移動に付き合わされて、それらメロディは二男の耳にも焼き付いた。
だから、彼にとってここ一番というとき最もしっくりくる音楽なのだろう。
日曜朝の道路はがら空きで、15分ほどで伊丹空港に到着した。
が、国際線の受付カウンターは長蛇の列であった。
並ぶ間、せっかくなのでいくらか円をポンドに両替してくるよう二男に促した。
ポンドと言えば、旅立ちの直前、星光大先輩の松井先生がお手元のポンド硬貨をご子息通じ二男の手に渡るよう取り計らってくださった。
が、学年違いのコミュニケーション不足があったのか、行き違い生じ受け渡しは成就しなかった。
しかし、そのお優しい心遣いだけで十分にありがたく感謝の念に堪えない。
二男は当地にて硬貨があることの便利有用さを思い知ることになり、その心を深く理解することになるだろう。
戻った二男が列に入り、代わってわたしたち夫婦はそこを離れた。
余計なお節介は差し控えねばならない。
もうここから先はなんでも彼が一人ですることになる。
無事チェックインを終え荷物を預け、スタバで軽くお茶して、搭乗口へと向かった。
セキュリティチェックのゲートをくぐる際、二男が振り向いた。
遠く見守るわたしたちをじっと見てから、彼は軽く手を振った。
わたしと家内はそれに応じて万歳するみたいに両手で大きく手を振った。
羽田経由でロンドン・ヒースロー空港、そしてそこからバスに3時間揺られる一人旅が始まった。
しばらくこれでリアル実物の二男の見納めとなるが、あの小さかった息子が今朝は少しばかり大きく見えた。
展望デッキにあがって彼が搭乗する飛行機の真上に陣取る。
うんともすんとも言わぬ飛行機を夫婦でだまって眺める時間が続く。
やがて定刻、ゆっくりと飛行機が動き出した。
左手の方向にしばらく走行を続け、滑走路の端近くになって、くるりと向きを変えた。
今度は右手に向け走り始め徐々に加速し、そのスピードを上げていく。
そしてわたしたちの眼前、二男を乗せた飛行機が離陸した。
その軌跡を家内とともにじっと目で追い、雲間の向こう、見えなくなるまで注視し続けた。
いつの間にか雨がぱらつきはじめていた。
今日からしばらく、二男からの便りを楽しみにして過ごす日々が続くことになる。
Sun, July 9, 2017 at 9:10 AM