月末、移動の途中、実家に寄り母を誘ってお昼を食べた。
昔なじみの店。
下町の寿司屋の暖簾をくぐる。
わたしたち家族にとって、寿司屋と言えばこの店を指す。
ネタが大きく結構うまい。
大学に入って町を後にし、以来各地の寿司屋を巡ってきたがどこと較べても遜色ない。
わたしたちにとって寿司屋の原点。
この先もその位置付けが揺らぐことはないだろう。
カウンター席は混み合っていたのでわたしと母はテーブル席に向かい合って腰掛け、にぎりの盛り合わせを頼んだ。
寿司が運ばれてきてすぐさま。
母はマグロとハマチを一貫ずつわたしの皿に載せた。
昔から変わらない。
子らに多目に食べさせることで一貫している母である。
他愛ない会話しつつ食べる下町の寿司はことのほか美味い。
食べ終わり、当然わたしが払おうとする。
しかし、力づくでもそうはさせじと母はわたしの前に立ちふさがった。
誘っておきながら面目ない。
年長者を立て、素直に好意に甘えることにした。
寿司屋の前で母と別れ、わたしは駅へと向かう。
つい昨日まで猛暑の夏であったはずが9月を待たずにすっかり風やわらぎ秋の気配が街に漂いはじめている。
歩いて心地よく、秋から冬にかけてのしんみりとした情景が目に浮かんで、なにやら温かく懐かしいような思いに包まれた。
たまには母と食事するのもいいものだ。
わたしに払わせようとしなかった、その気持ちがあまりに嬉しい。
生涯忘れられない名場面がわたしの胸に刻まれた、そんな秋の出だしとなった。