この日アフター5はジムではなく風呂。
阪神高速を飛ばしての帰途、鳴尾で降り熊野の郷に飛び込んだ。
湯につかって寝そべって過ごし半時間。
風呂は好きだがそれが限界。
脱衣所で着替えてまずは携帯をチェックする。
ほっと一安心。
急な用事などは何もない。
携帯を手にするようになってはや15年。
持ったが最後、片時も手離せないのが厭わしい。
知り合いの会計士さんは言っていた。
携帯に出ないで済むようになること。
それが彼の夢なのだという。
日頃相当電話に心身を痛めつけられているのだろう。
分からないでもない。
突如、アラームが鳴る警報機器を所持させられているようなものである。
目覚まし時計ならいつ鳴るかあらかた予想はつくが、携帯については出物腫れ物ところ構わずであって、まさかこんなときにと不意ついてブルル不穏に震える。
いちいち肝が冷え、ほっと胸を撫で下ろす。
それをずっと繰り返す訳だから、そこからの解放を夢見るというのも納得できる。
そんな風に憎々しげに携帯を見つめていると、メッセージが入った。
「おもしろい話がある」
家内からであった。
今夜の2万語はいつもより多目になるのだろう。
風呂を出て酒屋に寄る。
よく冷えたビールを買って家路についた。
家内がおもしろいと言うのだから必ずおもしろい。
果たしておもしろい話とは何だろう。
気になって気持ちは急くが、あえて呼吸を整え心落ちかせる。
楽しみまでのこの距離感がたまらない。
そのプロセス含め全部が楽しいものとなる。
この後わたしはどんな面白い話を耳にするのだろう。
ああ楽しみだ。