たまには遠出が必要だ。
家と職場を定点とし、点在するいくつかの訪問先を結んでできる小さく閉じた平面は次第、硬直したような脳内世界と化してくる。
同じところを行ったり来たりするだけの観念が、さも全世界であるかのように思えてきて、倦み疲れて視野狭窄、思考縮まり感性干からび命の炎が弱化していく。
小さく閉じた平面を広げるには、遠出が一番。
日頃行かない場所に行き、見慣れない世界に身を置けば、凝り固まった脳内世界がリセットされて清々しい。
新たな気持ちで日常に復帰することができる。
この日、家内と出かけた。
西へ進むか、東へ進むか。
クルマに乗ってからも迷いつつ、何の拍子でか鰻を食べようとなって東に針路を取り走ること2時間半。
わたしたちは熱田の地に降り立った。
明治から続く名店あつた蓬莱軒でまずは受付を済ませた。
このとき時刻は12時半。
名物ひつまぶしにありつくまで、1時間半は待たねばならない。
目の前に熱田神宮。
三種の神器のひとつ草薙の剣が祀られる日本屈指のパワースポットである。
ちょうど、ついたち。
お詣りして当然という話だろう。
正門となる南門にて一礼し、夫婦揃って鳥居をくぐった。
本宮で手を合わせ、数年前から一般公開となったこころの小径へと進む。
熱田神宮において最も神聖と位置づけられている一角である。
秋の空気に緑の香が絶妙に調和していて、そこを歩くだけで心が整う。
最北の奥まった場所にあるのが一之御前神社。
あたり一帯が静まり返っていて荘厳。
ここに、至高至貴の神と仰がれる天照大神の荒魂が祀られている。
手を合わせ夫婦揃って深々お辞儀した。
時刻は2時に差し掛かろうとしていた。
蓬莱軒へと引き返す。
店内の過半を外国人が占めていた。
ここ名古屋も他都市にひけとらず外国人観光客を多く取り込んでいるようである。
まさに絶品、至極美味なひつまぶしを夫婦で堪能。
美味しいものは夫婦揃って食べるのがいい。
思い出の深みが一層増すことになる。
そしてラストは名古屋駅界隈にて買物。
高島屋でミソカツやら手羽先を買い、有名なのだという和菓子を並んで買い、大名古屋ビルヂングを散策し、ピエール・マルコリーニでアイスを食べた。
半日ほどの滞在で名古屋を大満喫。
家内の二万語がすっかり日の暮れた夜の名神高速を疾駆して、わたしたちは元気ハツラツ、日常の地へと舞い戻った。
熱田神宮南門 平成29年10月1日正午すぎ