約束の時間は午後1時。
予定より30分も早くに着いた。
訪問先の駐車場は3台が上限。
そこにお邪魔するのも気の利かない話であるから、わたしは別途コインパークにクルマを停めた。
結構離れた場所であったが、少し歩くくらいが面談のウォーミングアップにちょうどいい。
強烈な寒気に見舞われて、朝より気温が低く正午過ぎなのに凍える寒さである。
野ざらしとなれば命に関わる。
そんなことを思いつつ、訪問先へと歩を進めた。
まもなくゴール。
ようやく暖にありつけると思ったのであったが、なんと留守。
そのとき電話が鳴った。
お相手は10分ほど遅れるという。
クルマでの移動であったから軽装であり、じっとしているのは耐え難い。
かといって駐車場まで戻ると今度はこっちが遅刻になりかねない。
耐え難いが耐える。
わたしはそう腹を括った。
社長さんのクルマが見えたとき、わたしは寒さで立ちくらみする寸前であった。
なんでこんなところに突っ立っているんだろう。
社長さんは怪訝の目をみはった。
なかに招き入れられ、消え入りかけた心拍がまるでV字をなぞるように回復しはじめた。
温かいことのありがたさが骨身に沁みた。
このように九死に一生を得るような業務をくぐり抜け、この日帰宅したのは夜の9時。
試験期間を走り抜いた下の息子がリビングでくつろいでいる。
床暖のうえ寝そべって毛布にくるまりタブレットと戯れている。
どこからどう見ても幸福。
定期試験後じわじわ込み上がってくるあの喜びが、息子の姿を通じてよみがえった。
わたしたちの頃は単独走で試験期間を踏破したものであったが、彼らは輪を作って試験に挑む。
自習室は友人らとの持久戦の場になって、いつまで経っても誰も帰らず、おのずと限界の少し先まで勉強するということになる。
だから完全燃焼でき、試験が終われば気持ちいいまで真っ白になれる。
その真っ白感が清々しくて、くつろぐ息子を眺めるうち、こちらまで大いに心満たされた。