奈良へと向かう大和路快速がホームに入ってきた。
窓際に座る若い女性がはりつくようにして外を眺めている。
アジアからのツーリストだろう。
笑顔が可愛い。
目が合って、ホームに立つわたしの頬も緩んだ。
旅する彼女にとっては胸躍るような未知の世界。
その胸躍る世界に、わたしは属しているのだった。
ちょうど今しがた理不尽なクレームの電話を受けたばかりだった。
いいことばかりで世界は構成されておらず、たまには頭がおかしくなりそうな話も聞かされる。
ホームは吹きさらしで風冷たく、話しは長引き、携帯持つ手が凍りつくかのようであった。
仕事中はフィールドのなかインプレーの状態にある。
普通の競技と異なり飛んでくるボールは一つとは限らない。
あちこちからボールが飛んできて、それだけでなくカラダぶつけられたり、スライディングされたりもする。
優しく肩に手を置かれたり、頭を撫でられたりといったことは滅多にない。
それでめげてしまうとこの仕事は立ち行かない。
毒添えて痛打されようが、蛙の面に小便。
小便の温かみにニヤつけるくらいで一人前と言えるだろう。
手はかじかむが、ほやほやの温かみで頭はホット。
そのタイミングでアジアの可愛いツーリストを見かけたものだから、心まで暖まった。
こちらの世界もいろいろあって結構楽しい。
頬ゆるめた中年の表情からそう伝わっただろうか。
お互い、良い旅となりますように。