雨降り続く夕刻、家内と事務所で待ち合わせて帰途についた。
家内が注文していた夕飯を近所の寿司屋で受け取り、クルマに乗り込んだ。
雨滴がワイパーによって撹拌されて、前方の景色がおぼろとなってその輪郭が丸みを帯びる。
そこに色とりどりの光が照射され、わたしたちの会話は過去へと向いて、様々な思い出に焦点が結ばれることになった。
自転車の前と後に子らを乗せあちこち出かけた思い出は、わたしにとっても家内にとっても、とりわけ強固に焼きついている記憶だった。
前と後に乗るのだから、彼らは当時とても小さかった。
可愛い盛りであったが、やんちゃ盛りでもあり手を焼いた。
そんな二人を乗せ家内は水泳教室や体操教室に出かけ、わたしは銭湯に彼らを連れた。
家に戻ってすぐ家内は持ち帰った寿司を盛り付け、そこに添える料理の支度をはじめた。
ハイボールを作ろうとするわたしを制して家内が言った。
いいグラスで飲むと美味しくなる。
それでわたしは普段使いのグラスを元に戻して、家内が作るのに任せた。
重みあるバカラのグラスに注がれたハイボールを口に含んで驚いた。
何の変哲もない角ハイが山崎や白州の味わいになったかのようであった。
無作為にプレイリストを選んで音楽を流すと、これがまた結婚当時よく聴いた曲であってそれらが続けて流れた。
車中から引き続き、わたしたちは懐かしい思い出話にふけることになった。
やがて夜も更け、インターホンが鳴った。
画面をのぞくと、雨に濡れて二男が玄関先に立っている。
わたしは玄関まで駆け下り扉を開けた。
それからまもなく、長男も帰ってきた。
二人の頑丈なガタイがリビングを動く。
こんな二人を自転車の前と後に乗せペダル漕いでいたなど、今ではとても信じられないことである。