王寺駅に着いたのは夕刻5時過ぎ。
雨模様であったがお湿り程度。
そのまま西大和まで歩くことにした。
この日の朝、下駄箱に佇む昔なつかしの靴と目が合ってそれを履いて出た。
きちんと手入れしているので履き心地よく歩くことが全く苦にならない。
19年も昔のことになる。
結婚式を間近に控えた時期、義母に買ってもらった靴である。
そこから1を引けば上の息子の歳となる。
まもなく誕生日。
これまでの歳月を文字通りこの靴も一緒に歩んできた。
いつの間にかこの通学路にも愛着のようなものが芽生えた。
中学から高校に至るまでの数々の名場面、珍場面が頭を巡り、感慨と寂寥が一体となって胸に満ちてくる。
6年はほんとうにあっという間だった。
まもなく一区切り。
卒業式では涙のひとつもこぼれ落ちるに違いない。
ほんとうによくしてくれた学校であった。
学校が大好き。
聞けば間髪入れず息子は答える。
鉄の結束を誇る友人らとの巡り会いも貴重であったが恩師との出会いもかけがえのないものだった。
中学の担任、高校の担任、それら先生の親身を思うとただただ頭が下がって地まで着く。
この学校の先生の熱量は、他校とは桁違いと言っていいだろう。
まだまだ息子は青二才。
恩師のありがたさが身に染みるのは当分先のことになるのかもしれない。
いつかある日、たとえばこのように一人歩く道すがら、突如、何かがよぎって歩を止める。
自身に向けられた思いやりの大きさに気づいて言葉を失い立ち尽くす。
そんな場面が目に浮かぶ。
学校で先生と半時間ほど話をした。
帰る頃には小降り程度の雨になっていた。
バスを使うことにした。
前で待つ生徒らがわたしを先に通してくれる。
つり革につかまって空間図形についてする生徒らの議論を追いつつ、すっかり日の暮れた王寺の景色をぼんやり眺めた。
クルマのライトが雨滴の一粒一粒を明瞭に照らし出し、雨脚が強まっていく様子が一目瞭然だった。
そこから電車を乗り継ぎ家まで1時間ほど。
息子が毎日行き来した行程を息子の目線になって味わった。
残すところあと数ヶ月。
息子が通ったその学校はわたしたちの暮らしの一角を占める存在だった。
駆け足で過ぎ去ろうとする6年に名残惜しいような気持ちが込み上がる。
地元の駅を降りると雨は本降りになっていた。
しかし足元は盤石。
19年ものの靴はますます丈夫で頑強。
雨などものの数にも入らない。