おいしいごはんを作っておく。
そんなメッセージが家内から届いた。
ふと頭に餃子が浮かんだので、ついでに焼いておいてとリクエストした。
仕事を終えてジムに寄る。
夕飯分のカロリーは消費しておかねばならない。
マシンの画像でYouTubeを選びここ最近の定番、BlackPinkとキーボードに入力した。
走るのに最適。
アップテンポで筋肉鼓舞するサウンドと手数多くてキレあるダンスに乗せられて、ハッスル効果抜群、足の運びが倍増しになる。
大いに張り切って走って半時間も過ぎた頃。
隣のマシンに若い女性がやってきた。
こちらの画面にチラと向けられた視線を感じ、一度ならず複数回その視線を感じることになった。
いい歳をした中年オヤジがBlackPinkに見入ってわっせわっせと走っている。
奇怪な図であることは間違いなく、目を疑って何度も見る、ということは十分にあり得ることだった。
誰がどう思おうと構わない。
自身にそう言い聞かせ、そんな強さを自身のうちに宿そうと日夜心がけているが、このときばかりは恥ずかしいと思う心を抑えようがなかった。
走りつつ自らの欺瞞を思い知らされた。
『誰がどう思おうと構わない』、なんて嘘なのだ。
全くの赤の他人を横にしてさえ、体面を気にする。
わたしは小さな小さな男なのであった。
ちょっと憚られるような画像が出る度、そそくさ切り替え、わたしはできるだけ穏当な動画を選んでいった。
人目を忍ぶような走りとなって、歩幅は小さく全身の躍動も縮小気味となる他なかった。
帰宅すると長男が夕飯を食べていた。
彼がわたしより早くに帰ってくるなど珍しいことだった。
ジムでの話などおくびにも出さず、息子の前に座ってわたしも夕飯に合流した。
まずは大盛りサラダ。
ハムとチーズが入って食べ応えあって、パクチーソースがエキゾチックな味を醸す。
メンチカツが揚がって、それに続いて箸休めに納豆。
そして仕上げはわたしが所望したとおり、はちやの餃子。
趣向を変えてこの夜のタレはパクチーソース。
美味しいものは何とでも合う。
ソースのガーリックと餃子のニンニクが絶妙なハーモニーを奏でる見事なコラボとなった。
ハイボールを飲みつつ、自宅から一緒に通えるスポーツクラブについて家内と調べていてふと気づく。
隣が家内であれば、なんらその目を気にすることがない。
あまりに長く慣れ親しんだということなのだろうか。
不思議なことである。