KORANIKATARU

子らに語る時々日記

趣味というより生態とも言うべき類の話

10年前の1月24日は土曜日だった。

美味しいピザを食べようと家族を伴い神戸を訪れた。

 

人気店だったので店の前でしばらく順番を待つことになった。

子らはまだ小さく、店外に置かれた電気ストーブの前で二人並んで暖を取り、マッチ売りの少女さながらその暖かな火の向こうにピザを夢見た。

 

その光景以外、記憶に残るのはイタリアの銘柄のビールの輪郭のみ。

瓶の影がおぼろに浮かぶだけで、他に思い出せることは何もない。

 

エピソードに満ちた濃密な時間であったはずなのに、放置すれば、時間の中身はことごとく失われ無と化していく。

 

しかし、日記を始めて以来、そのようなことはなくなった。

自ら書いた文章が時間にいかりを下ろすようなもの。

 

記憶が漂泊し行方不明になることなど今では一切なく、そのときしたためた言葉が光となって、例えばおぼろに浮かぶ瓶ビールの周辺を照らし出し、場所も時間もひっくるめてまるごと、ありありとした姿と手触りを数珠つなぎで蘇らせていく。

 

言い換えれば、自身が通り過ぎてきた時間の各所に扉をつけるような行為ともいえ、わたしは時間の各所を日々自由に出入りし心弾ませ、現在進行形で弾む世界を目下拡大中とも言える。

 

単に楽しい、というのを通り越し生きがいとも呼べるほどの域にあるので、趣味を聞かれれば映画や旅行などと答えるが、日記については趣味というよりわたしという個の生態とも言うべき類の話なのだろうと思う。

f:id:KORANIKATARUTOKIDOKI:20190124191459j:plain

2009年1月24日18:39 神戸 ピッツェリア アズーリ